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ホーム > 刊行物 > 国立環境研究所年報 > 平成10年度 > 科学技術振興調整費による研究  1.総合研究

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科学技術振興調整費による研究


1.総合研究


(1)生殖系列細胞を用いた希少動物種の維持・増殖法の開発に関する基盤研究
 (1)鳥類での子孫個体繁殖率の向上に関する遺伝的解析

〔担当者〕

地域環境研究グループ 高橋慎司
社会環境システム部 清水 明

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
野生鳥類の絶滅は,環境要因による個体数の減少に始まり,末期には近交退化による不可逆的で急激な繁殖能力の低下によって加速されると考えられる。国立環境研究所動物実験施設には,鳥類の実験動物としてニホンウズラの近交系が系統維持されており,しかも近交退化の絶滅型と回復型とに分離している。そこで,まず近交系ウズラを用いて鳥類の近交退化メカニズムを解明し,次に野生ウズラで近交退化の事例を解析し,最終的には絶滅が危惧されている野生鳥類を救済するための具体的方策を検討するのが,本研究の目的である。

〔内 容〕
平成10年度は,実験用ウズラを用いて近交化に伴う繁殖能力の変化を把握するとともに,近交系ウズラ間での交雑試験を行い雑種強勢による繁殖能力の回復を図った。また,近交系ウズラの卵殻を改善させるため,ミネラル添加装置を試作した。以下に,主な成果を示す。
 1)近交系ウズラ(H2及びL2系)の50世代にわたる繁殖能力を解析した結果,H2系は絶滅型へL2系は回復型へ分離したことがわかった。すなわち,L2系のふ化率は43世代目で下降から上昇に転じており,近交退化を克服したことが考えられる。これからのモデルは,希少野生鳥類の繁殖能力を改善させるために有用な情報を提供するが,本年度は適応度指数(産卵率×受精率×ふ化率×育成率)の有用性を検討した。その結果,育成率を除いても近交退化現象が解析できることがわかった。
 2)近交系ウズラの卵形を画像処理し,卵形診断により近交退化の兆候を探ることが可能となった。近交退化によりH2系ウズラの卵形は標準値より著しく丸くなっており,サイズも10〜20%は小さくなっていることがわかった。
 3)近交系ウズラ間で交雑した結果,ふ化率が明確に向上したペアは30%であり,近交化の進んだ交配では雌雄の相性(Nicking)が重要であることがわかった。
 4)鳥類は近交化に伴って,軟卵などの卵殻不良が多く,ふ化率に悪影響を与えている。今回は卵殻改善のために,カルシウム添加装置を試作した。
〔発 表〕B81〜83,b−169


(2)植物の環境応答と形態形成の相互調節ネットワークの解明に関する研究
 (1)大気汚染ガスによる障害発生及び耐性の分子機構

〔担当者〕

生物圏環境部 佐治 光・久保明弘・青野光子
地域環境研究グループ 中嶋信美・玉置雅紀

〔期 間〕
平成9〜11年度(1997〜1999年度)

〔目 的〕
 植物の大気汚染ガスに対する反応の解明は,ストレス状態下にある植物の遺伝子発現制御機構などを解明するためのモデルケースとなるだけでなく,大気の浄化や汚染物質のモニタリングに植物を有効に活用していくための重要な情報となる。そのために,以下のような研究を行う。
 大気汚染による障害に関与していると考えられるエチレンの生合成のキーエンザイムであるアミノシクロプロパンカルボン酸合成酵素(ACS)の遺伝子(cDNA)を単離し,その発現を調べるとともにこれを植物に導入し,組換え植物を用いた研究により障害発生とエチレンの関係を明らかにする。また大気汚染ガス耐性の分子機構を解明するために,大気汚染ガスなどのストレス要因に対する感受性の高い突然変異体を選別し,その遺伝的及び生理的性質を調べるとともに原因遺伝子の単離を試みる。

〔内 容〕
 トマトのACSのcDNAをカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流にアンチセンス方向につないで植物に導入し,トマトで26系統,またタバコの品種SR1で9系統,Bel−W3で16系統の組換え体が得られた。これらのうちトマトとタバコのSR1由来の系統について,ノーザン分析を行った結果,導入した遺伝子が様々なレベルで発現していることがわかった。さらに,これらの系統のオゾン感受性を調べたところ,オゾンとの接触によって葉に生じた障害の程度には系統,個体間で大きな差が観察されたが,対照の非組換え植物よりオゾン耐性の高そうな組換え体が,トマトで2系統,タバコSR1で3系統得られた。しかしながら,今回の結果では個体間の耐性にばらつきが大きかったことから,これらの系統についてはその再現性を確認する必要がある。
 一方,シロイヌナズナの変異体は,現時点でオゾン感受性系統が,速中性子線処理されたものから8系統,EMS処理されたものから10系統,T−DNAタギング系統から1系統得られている。また,光照射下での低温感受性系統(タギング系統)が11系統,過酸化水素感受性系統(タギング系統)が1系統得られている。これらのうち17系統について,種々のストレスに対する感受性を調べた結果,オゾンや低温にのみ特異的に感受性を示す系統と,複数の異なるストレスに感受性を示す系統とに分類できることがわかった。またさらに詳細な解析を行った結果,これらの変異体のうち低温下でのアントシアニンの蓄積が抑えられるものが9系統見いだされた。低温光照射に感受性の11系統のうち,4系統がオゾン感受性であったことから,これらのストレスに対する耐性機構に共通部分があることが示唆された。また,オゾン感受性変異体の中にアスコルビン酸含量が有意に低いものが1系統見いだされた。

〔発 表〕B−94,H−11, b−184, h−14〜16, 18


(3)高精度の大気海洋及び固体地球の変動予測のための並列ソフトウェア開発に関する研究

 (1)全球・領域気候モデルの並列処理環境におけるネスティング技術に関する研究

〔担当者〕

大気圏環境部 江守正多・野沢 徹・神沢 博

〔期 間〕
平成10〜14年度(1998〜2002年度)

〔目 的〕
 並列処理技術の本格的導入による計算機の高速化・大規模化に伴い,今後10年程度で全球気候モデルの水平解像度は現在の数百kmスケールから数十kmスケールまで向上することが考えられる。しかし,温室効果気体などの増加に伴う気候変動における地域スケールの気温や降水量などの変化を高精度で予測するためには,より小さいスケールの大気擾乱や雲活動,地形や土地被覆の影響などを表現できる水平解像度数km程度の領域気候モデルの活用が不可欠である。領域気候モデルでは計算範囲を関心のある領域に限定することで,全球モデルよりも高い解像度を実現する。全球モデルと領域モデルを結合(ネスティング)することによって,全球の整合性を持って計算された全球モデルの結果を領域モデルに境界条件として与え,領域(例えば日本域)内でより高い解像度で精密な計算を行うことができる。これにより,関心のある領域に関してより高精度の予測が可能となる。このような精密な気候モデル計算を十分な速度で行うことを目的として,本計画では並列計算機上で全球気候モデルと領域気候モデルを最適にネスティングする技術を開発するための研究を行う。

〔内 容〕
 本研究では,全球モデルと領域モデルを結合して実行する手法を開発し,結合したモデルの最適並列化を行う。領域モデルにはコロラド州立大学領域大気モデリングシステムCSU−RAMSを用いる。
 まず,領域気候モデルを分散メモリー並列スカラー計算機(IBM SP2)及びベクトル計算機(NEC SX4)でテスト実行し,実行効率の調査と効率を抑制している要因の検討を行った。テスト計算には水平50×50格子,鉛直23層でモデル時間1ヵ月の積分を行った。分散メモリー並列スカラー計算機上でのRAMSの並列実行テストでは,MPI並列化により8ノードで4倍から5倍の実行速度が得られることが明らかになった。ベクトル計算機上でのシングルノード実行テストでは,ベクトル命令実効比率は75%と低く,コードの改善の余地が大きいことが示されたが,さらに平均ベクトル長が16程度と著しく短いことが判明した。このような問題点をもたらすコードの特徴を調査し,改善方法を検討した。
 次に,全球モデルの出力データを領域モデルの格子点の値に変換する手法の検討を行い,データ交換インターフェイスのプログラムを作成した。この際,特に地形の起伏のある陸上の全球モデル結果を,地表面付近の鉛直解像度を劣化させることなく領域モデルの境界値データとして受け渡すことができるよう改良を行った。さらに,このインターフェイスプログラムを領域気候モデルの実効中に随時呼び出してデータ変換を行えるように領域気候モデルへの組み込みを行った。

〔発 表〕f−11


(4)炭素循環に関わるグローバルマッピングとその高度化に関する国際共同研究
 1)衛星データを用いた海洋の炭素循環と一次生産及び関連諸量のマッピングに関する研究
 (1)気候変動の一次生産及び関連諸量への影響評価に関する研究

〔担当者〕

化学環境部 柴田康行・米田 穣
地域環境研究グループ 吉永 淳

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 人間活動に伴う二酸化炭素等の放出による地球温暖化は,現代の地球環境問題の中でも重要な課題である。この解決のためには全球レベルの炭素収支の把握に基づく定量的な解析が不可欠であるが,現状では情報は極めて不十分であり,正確な収支の推定が難しい。本研究では,衛星観測データに基づいて炭素収支の解析のための基礎データの全球分布図を提出する(グローバルマッピング)ことを目的とし,そのための精査地域・海域として世界の熱源である西太平洋暖水塊(WPWP)周辺の精密測定と衛星データとの突き合わせをあわせて実施する。

〔内 容〕
 百年〜数百年にも及ぶ長期にわたって成長を続けるハマサンゴ類のコア試料を解析して気候変動などの長期的な環境変化を読みとるための手法開発を進めた。海水温並びに塩分(主に降雨量によって左右)を反映するとされる酸素同位体を連続的に測定するための試料前処理ラインを作製し,安定同位体測定MSと結合して性能評価を行った。一方,主に海水温を反映するとされるサンゴ中のアルカリ土類元素比(Mg/Ca比並びにSr/Ca比)の分析手法の一つとしてマイクロレーザーアブレーション法に着目し,その条件検討並びに測定精度の限界に関する研究を進めた。サンゴ試料をスラブ状に切り出して,その断面を数十ミクロン間隔で調べていった結果,20〜20数ショットをまとめて1回の測定とし,それを繰り返して得られたデータ(元素比)のバラツキの範囲は1〜3%程度に収まり,通常の溶液測定と比較してもそれほど遜色のない精度を出せることが確認できた。
〔発 表〕D−11


 2)衛星データを用いた陸域の炭素循環と一次生産および関連諸量のマッピングに関する研究
 (1)湿地域における二酸化炭素吸収量推定手法の高度化に関する研究

〔担当者〕

社会環境システム部 山形与志樹

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 湿原を始めとする陸域植生の二酸化炭素吸収量推定には,現存植生量と純生産量の推定が必要不可欠である。ここで湿原植生は生育空間を同一にした混合群落を形成し,周辺環境に応じて群落内の構成比率を連続的に変化させ分布している。そのため,衛星データによる観測では,1画素内に複数植生からの情報が混入し,かつ不均一であることから,農地や森林における均一な対象のバイオマスや純生産量などの推定手法を適応することには限界が生じる。そこで本研究では湿原植生の二酸化炭素吸収量推定を最終的な目的とし,現存植生量及び純生産量推定の高精度化を行うため,湿原植生中最大のバイオマス量であるハンノキ林を始め,ヨシなどの複数植生が混生した群落において,分光画像を用いた各植生タイプ別のバイオマスを推定する手法の開発と検証を行った。

〔内 容〕
 ヨシとハンノキ群落を対象として,航空機センサによる分光画像を用い,別に得られた樹冠面積,樹高等との比較を行った。テストサイトとしてハンノキが密生し高木林を形成している場所と,低木林でかつ疎な状態の2ヵ所を選定し,群落上を1/5000スケールで撮影した航空写真を用いた図化作業により,200m×200mの範囲内のハンノキすべてについて樹高を算出し,また樹冠をポリゴン化することで面積を求めた。これに航空機センサCASIの多重分光画像を重ね合わせた。ここでCASIとはItres Research社製の航空機用光学センサで,400nmから900nmの領域を任意のバンド数に分光した画像を取得する。本データ取得時は地上分解能約2m×2mの10バンド分の分光画像を収録した。この画像を幾何補正し,航空写真により求めたハンノキのポリゴンデータに重ね合わせた。次に,画像データを20m×20mのメッシュ化し,このメッシュ内に相当するCASI画素(100画素分)の平均スペクトル値と,ハンノキの樹冠面積比率,平均樹高の集計を行った。解析の結果,まず林分因子とCASI単バンドの観測輝度値との相関を求めたところ,樹冠の面積比率に対しては700nmのCASI観測値との相関が最も高く,高い精度で樹冠の面積比率を推定できることがわかった。逆にバイオマスとの相関が高いとされる近赤外領域は相関が低い結果となった。これは,ハンノキは高木林を形成する場合と,立ち枯れ後に複数の幹が同一の根株から再生し,低木林を形成する場合があること,また樹冠面積比率が低い場合には,ハンノキと混生群落を形成しているヨシの反射率がハンノキ群落を上回るためと推察できる。今後はヨシの反射スペクトルを考慮したミクセル分 解のアプローチと,樹高及び樹冠面積からハンノキのバイオマスへの変換式を求め,バイオマス量の面的把握を目指す。


(5)バイカル湖の湖底泥を用いる長期環境変動の解析に関する国際共同研究

〔担当者〕

化学環境部 河合崇欣・柴田康行・
田中 敦・相馬悠子
水土壌圏環境部 高松武次郎
地球環境研究グループ くぬぎ正行・森田昌敏
科学技術特別研究員 南 浩史

〔期 間〕
平成7〜11年度(1995〜1999年度)
平成10年度から第U期

〔目 的〕
 世界最古のバイカル湖湖底堆積層の不撹乱柱状試料を採取し,物理・化学的,陸水学的,生物・生態学的測定及びデータの解析によって,ユーラシア大陸北東域の長期(〜1000万年)気候・環境変動を再現する。科学情報として極めて不十分な状態にある内陸域古環境変動に関する緻密で連続性の良い情報を得ることによって,氷床柱状試料・海洋底柱状試料等によって検討されてきた地球環境変動の議論を補完する。ここでは,主として不撹乱柱状試料採取,堆積年代決定法,化学分析及びデータベースの構築を行う。

〔内 容〕
 平成10年度は,バイカル湖の湖底堆積層から採取した200mの不撹乱柱状試料の測定・分析をほぼ終了し,過去500万年程度のバイカル湖地域の気候や環境の変化を再現するための解析に着手した。また,前年度末に採取した600m柱状試料の測定・分析に着手し,解析対象年代を1000万年程度に拡張した。地球の気候変動に与える地表条件の影響を考察する目的で,ミランコビッチサイクルの検証や生物相変動(花粉,有機化合物,光合成色素など)との関連について解析を進めた。
 具体的には,以下のような研究課題を他省庁研究機関,各大学と共同で設定するとともに,ロシア・アメリカ・ドイツの研究者との共同研究で総合的な測定・解析を行っている。
(1)掘削手法及び現場測定に関する研究
 1)掘削手法に関する研究
 平成10年度は,バイカル湖南湖盆のポソルスカヤバンク(水深210m)で350mの不撹乱柱状試料の採取に成功した。回収率は,96%以上であった。本課題における湖底深度掘削試料採取は今回で終了した。これまでに,以下の試料を採取,国際分配の後,輸入して測定・分析に供している。試料名の2桁数字は採取年を示す。
試料名 採取地点 長さ 底部年代
表層(毎年) 湖内全域(多数) 〜12m 〜30万年
BDP−93 ブグルジェイカ沖 100m 60万年
BDP−96 アカデミシャンリッジ 200m 500万年
BDP−97 南湖盆 42m 未推定
BDP−98 アカデミシャンリッジ 600m 1500万年
BDP−99 ポソルスカラバンク 350m 未推定
(2)堆積年代測定に関する研究
 1)14C加速器質量分析法の応用に関する研究
 14C等の長寿命放射性同位体の先端的高感度分析手法である加速器質量分析法(AMS)と,微量成分の高度な分離手法である多次元ガスクロマトグラフ(GC)とを組み合わせて,新しい高感度な分析システムを開発し,堆積年代の決定等に用いることを目的とする。平成10年度は,ガスイオン源の実用化に関する研究を継続し,微量試料の手動導入装置を設置してイオン化に与えるキャリアガス流量など各種パラメータの条件検討を開始した。また,分取キャピラリーカラムガスクロマトグラフ(PCGC)及び大量試料導入システムを用いて,環境中の微量成分を単離するための条件検討を進めた。最適化された条件で炭素数の異なる一連のn−アルカン(n−パラフィン)を含む試料を繰り返し注入して各化合物のリテンションタイムの再現性を確認した結果,C28前後より軽い成分では1秒以下のバラツキで再現性良く繰り返し分離の可能なことが確認できた。以上の結果をもとに津波堆積物や底質試料などいくつかの堆積物試料を入手し,各成分分離のための条件検討と最適化をすすめた。
 2)10Be加速器質量分析法及び古地磁気年代法の併用による1千万年年代決定に関する研究
 1000万年絶対堆積年代決定法の新規確立をめざして,底質試料中の10Be/26Alの測定法を最適化する。10Beでは,底質試料の粒度125μm以下の部分を用いること,密度補正を行うことなどによって,負荷量変動に関する情報が改善されることが明らかになった。また,26Alが底質粒子の表層に吸着されていることに着目して,段階的溶解法を検討し,岩石の主要成分元素である27Al(安定同位体)に対する比で数十倍の濃縮ができた。これらの結果,バイカル湖の湖底堆積層中の26Alは古地磁気年代に対応してほぼ理論減衰曲線に沿った濃度変化を示すことが示されつつある。
(3)地質学的手法による環境変動解析に関する研究
 1)堆積物の物性測定による環境変動解析と気候変動要因に関する研究
 2)湖水面変動と掘削試料による流域環境変化に関する研究
 3)微化石群集変動と水域環境変動要因に関する研究
(4)化学的手法による環境変動解析に関する研究
 1)無機元素及び生元素安定同位体測定による環境変動解析の研究
 湖沼堆積物の無機成分(元素組成)は過去に湖内や流域で起こった生物・化学・物理反応の結果を化学化石として保存していて,気候変化と連動した生物生産量や外来物質流入量の変動,底層水や堆積物表層での酸化還元状態の変化,地殻変動(湖盆の移動や水深変化)の影響などを記録している。したがって,堆積物の元素組成を,初期続成作用の影響などを十分考慮して解析すれば,そこから古環境に関する有用な情報を抽出することができる。ここでは,バイカル湖で採取した堆積物コア中の約40元素をICP−AES,ICP−MS,中性子放射化分析などで定量し,バイカル湖堆積物の無機成分特性を明らかにするとともに,元素の鉛直濃度分布から,過去数百万年〜一千万年の間の湖,流域,及び地球規模の環境変化を推定する。また,堆積物中の生元素安定同位体や光合成色素の分析なども行い,結果を総合的に考察して古環境を復元する。
 平成10年度は,1996年冬にアカデミシャンリッジで採取された約200m長のロングコア(BDP96−1&2;最深部は約500万年前に相当)と湖全域から採取した約30cm長の表面泥コアの元素組成を分析し,以下の結果を得た。(1)約300万年前を境にして大気循環が大きく変動した。(2)ミランコビッチ周期が元素組成にも反映されていて,卓越する周期は元素種によって異なった。例えば,CoとHfでは2.3万年周期が,Ca,Ti,Cu,及びMoでは4.1万年周期が,そしてAl,Fe,Mg,Mn,他9元素では10万年周期が卓越した。(3)330〜500万年前の期間にKの顕著に高い時期があり,気候が温暖化して植物生産が増大した可能性が示唆された。(4)MnとFe濃度には時々スパイク状の変動が見られ,増加期には地震活動などが活発化して熱水が湧出した可能性が示唆された。(5)表面泥コア中の6元素(Ca,Mn,Zn,Co,Cu,及びSr)の濃度の関数は水深と極めて良い相関(r=0.968)を示し,古水深の予測に使用できることがわかった。(6)δ13Cの変動はEmilianiがδ18Oの変動から予測した気候変動と良く対応した。(7)光 合成色素は約70mの深さまで検出され,その変動は,生物起源珪酸塩の変動と調和的で,湖内の生物生産量の変動を表した。(8)植物プランクトン種を復元するのに有用な指標化合物であるステリルクロリンエステルがバイカル湖の堆積物中で検出された。
 生物を構成する主要元素である炭素及び窒素はそれぞれ2つ以上の安定同位体を有する。同位体は化学的性質は同じだが重さが違うため,存在状態が変わるとき,例えば植物による吸収や捕食者による消化吸収などによって存在比の変化(同位体分離)が起こる。底質中の炭素及び窒素の同位体比を測定した結果,氷期−間氷期などの気候変動サイクルに対応していると思われる同位体比の時間変動が検出された。
 2)有機化合物測定による環境変動解析の研究
 湖底堆積層中の光合成関連色素(フェオフィチン,カロチン)について化合物レベルの存在量変化を測定した。これらの色素は植物の種類によって構造が異なるため,気候の変化とともに主要植物群がどのように変化するのかが議論できる。湖底表層(現在)の化合物組成との比較が必要となってきた。
(5)生物学的手法による環境変動解析及び生物進化に関する研究
 1)植生変遷に関する研究
 2)DNA解析による生物群集変動及び生物進化の研究
(6)総合解析及びデータベース構築に関する研究
 1)シベリア・極東地域の気候変動既存データベース構築及び大気大循環モデルとの比較研究
 2)植生変遷及び生物進化データベースの構築に関する研究
 3)総合解析及びバイカルデータベース運用に関する研究
 日本−ロシアにミラーサイトを置く国際共同データベースのハードウエアの構築(第一段階)を完了した。運用面での基本構造として,一般公開/プロジェクト内共有/個人・グループコアの3層構造を議論し,国際合意した。これを土台としたデータベースの構築を行う。


(6)成層圏の変動とその気候に及ぼす影響に関する研究
 1)成層圏の素過程の研究と大気微量成分の変動解明
 (1)成層圏オゾンに影響を及ぼす臭化メチル等の起源と動態に関する調査研究

〔担当者〕

化学環境部 横内陽子

〔期 間〕
平成10〜11年度(1998〜1999年度)

〔目 的〕
 成層圏オゾン破壊に寄与する臭化メチル等海洋起源ハロカーボン濃度の観測を北半球高・中・低緯度域において継続し,その季節変動,年々変動を明らかにする。さらに,航空機を利用してハロカーボン類の鉛直分布を調べる。これらのデータを基に海洋起源ハロカーボンの濃度分布と発生量の変動要因を解析する。最終的には,成層圏変動が海洋からのハロゲン化メチル発生量に及ぼす影響とそのフィードバック効果の予測に結び付ける。

〔内 容〕
 1)北太平洋,北極域(アラート),亜熱帯域(波照間島)の3地域において大気中ハロゲン化メチル濃度の定期観測を継続して,季節変動データを蓄積した。高緯度における塩化メチル濃度は平均よりも低く(約500ppt),その季節変化は大気中の反応性に対応したもので発生源の直接的影響は見られなかった。亜熱帯の波照間島における塩化メチル濃度は高緯度のものに比べて約20%高く,より大きなバラツキを示した。別課題で実施された船舶調査からも熱帯の島近傍で高濃度の塩化メチルが観測されたことから,その発生源として海洋よりむしろ熱帯域の島の重要性が示唆された。この塩化メチルが主に熱帯から放出されるという考えは従来の説を大きく変えるものであるが,海洋起源説の場合のいくつかの矛盾点(海洋面積が異なるにもかかわらず,南北両半球で分布が対称など)を解決することができる。また,発生源がプランクトンか海水中の光化学的生成であるか評価が分かれていたヨウ化メチルに関して,生物活性より,海水温あるいは日射量との相関が見られたことから,後者の化学的生成機構を支持した。
 2)航空宇宙技術研究所との共同研究として航空機を使用したハロゲン化メチルの観測を立ち上げ,相模湾上空における鉛直分布の季節変動測定を開始した。大気のサンプリングはステンレス製キャニスターを使用して,500〜7,000mの6高度で行っている。

〔発 表〕D−42,d−43, 45


 (2)光化学モデルを用いた成層圏オゾンの長期変動の研究

〔担当者〕

地球環境研究グループ 秋吉英治

〔期 間〕
平成10〜11年度(1998〜1999年度)

〔目 的〕
 ピナツボ火山爆発後の大気に見られたように,火山性エアロゾルの成層圏での増加は,気温やオゾンをはじめとする大気化学成分の変動を引き起こす。この変動は,大気中の二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスやフロンガス濃度が現在の値から変化した場合,どのように異なってくるのだろうか?また,それにはどのような過程が働くのだろうか?光化学−放射結合数値モデルを用いた実験を通して,大気中の複雑な過程を個別に及び総合的に調べることによって,火山爆発後の光化学過程を温室効果気体の増加との関連において明らかにすることができる。本年度の目的は,成層圏下部から対流圏上部にかけてオゾン収支に影響を与える臭素系物質を1次元光化学−放射結合モデルに新たに導入し,現在の大気微量成分の濃度でピナツボエアロゾル実験を行い,オゾンの年々変動を調べることである。

〔内 容〕
 これまで本研究所で開発してきた1次元光化学−放射結合モデルに,新たに臭素系の反応に関するスキームを開発し,約50種類の光化学反応を新たにモデルに導入した。このモデルを20年間分走らせ,モデルの定常状態を得た。オゾン全量は,臭素系物質をモデルに導入したことにより,約3.5%減少した。これは,臭素系物質によるオゾン破壊サイクルが成層圏下部及び対流圏上部で働くためである。この定常状態から,ピナツボ火山爆発による成層圏エアロゾルの増加実験を行った。オゾンは,火山爆発後約1年で極小となり,オゾン全量は約4.8%減少した。今回新たにモデルに導入した硫酸エアロゾル上での不均一反応,BrONO2+H2O→HOBr+HNO3の反応が,このオゾン減少に与える影響は大きく,その反応係数の現時点での推奨値を用いると,この反応を導入することよってオゾン減少が約2倍に拡大された。この結果は,反応係数の信頼性とともにまだ検討の余地がある。また,オゾン減少はエアロゾル層の存在する大気が暖められているかどうかにも敏感で,温度をエアロゾル層増加前の値に固定した数値実験では,オゾン減少は,3.2%にとどまった。また, エアロゾル層によって太陽光が散乱されその散乱光によって大気微量成分の濃度が影響することも考えられるが,太陽光強度をエアロゾル層増加前の値に固定した数値実験によって,オゾン全量への影響は小さいことがわかった。
〔発 表〕a−2


 2)成層圏変動の気候への影響に関する解析及びモデルを用いた研究−衛星データ等を用いた解析的研究
 (1)衛星データ等の解析による極渦構造の変動メカニズムの解明

〔担当者〕

大気圏環境部 神沢 博・菅田誠治
地球環境研究グループ 笹野泰弘

〔期 間〕
平成10〜11年度(1998〜1999年度)

〔目 的〕
 本研究の目的は,成層圏極渦の構造,極渦の孤立性の機構を力学的解析によって理解することである。極渦の構造は,オゾン,温室効果ガス等の分布を決める大きな要素であり,それらの分布は,直接的には放射過程を通して,間接的には放射過程によって規定される成層圏の温度分布,さらには,温度と密接な関係がある風の分布を通して気候へ影響を及ぼす。
 成層圏の温度分布は,基本的にはオゾンによる紫外線の吸収加熱と二酸化炭素,オゾン,水蒸気の赤外放射冷却のバランスによって定まっている。大気の運動による力学的な熱の輸送,さらには,オゾン等の物質の輸送が,その温度分布を変化させる要因となる。成層圏の極渦とは,冬季に西から東に吹く強い風(極夜ジェットといわれる)が低温の極域を取り巻くように流れている様をいう。極の真上からみれば,北半球では左回りの渦,南半球では右回りの渦ができている。秋から冬にかけて発達し,南半球においては春,11月頃まで持続する。北半球においては,通常3月頃まで持続する。南半球の極渦の方が強く,かつ,持続期間も長い。南極域においてオゾンホールが発達するのは,この極渦の性質のためである。

〔内 容〕
 問題意識:極渦の空気の入れ代わりの機構およびタイムスケール(極渦の孤立性)を特定する。その際,上下方向の交換(成層圏対流圏間の空気粒子交換)および緯度方向の交換の両者に着目し,両者を統一的に理解する。また,「極渦の孤立性が高まる」ことは,「極渦内の空気と低緯度の空気との混合が小さい」ことを意味し,以下の2つの過程が働くことを意味する:「低緯度からの熱輸送が小さい→低温→オゾン破壊」;「低緯度からのオゾン輸送が小さい→低温」。両者の過程とも低オゾン低温度の状態を招き,極渦の孤立性がさらに高まると考えられる。この両者の過程の寄与の大きさを評価する。
 本年度の研究内容:1996/1997年北半球冬においては,極渦が非常に安定で異常に長期間持続した。この期間に環境庁開発のILASセンサーにより取得されたデータ,特に,空気運動のトレーサーとなる長寿命不活性気体である亜酸化窒素(N2O)データを解析した。データ処理アルゴリズムが改訂されたILASのN2Oのデータが等混合比の値を取る高度を日々追跡することにより,極渦内で確かに下降運動が起こっていたことを見いだし,その値としては,改訂前のバージョンの値(約1km/month)に比していささか小さい値を得た。この運動だけで極渦と極渦外との空気交換が起こるとすると,極渦中の空気粒子の滞留時間が1年近くになるような大きさである。定量的に確信を得るためには,さらなるデータ質評価が必要である。一方,極渦の内外の水平混合の度合いを評価するために,気象データを使用した多数の空気粒子(数万個)のトラジェクトリー解析を行っているが,本年度は,前年度に行った方法を時空間分解能の細かい気象データによって解析するための準備を行った。
〔発 表〕k−2,F−4〜15, f−12〜24


(7)物質関連データ(生体影響,食品成分,表面分析)のデータベース化に関する調査研究
 (1)生体に悪影響を与える環境汚染に伴う化学物質のデータベース化に関する研究

〔担当者〕

化学環境部 中杉修身・白石寛明

〔期 間〕
平成9〜10年度(1997〜1998)

〔目 的〕
 化学物質は様々な経路を通じて生体に様々なリスクをもたらすが,環境汚染を通じての微量の暴露がもたらす環境リスクはその中でも重要なリスクの一つである。環境リスクを評価するには,毒性データとともに暴露量の予測に関するデータの整備が必要である。本研究では,暴露量の評価に必要な環境濃度やその予測に必要なデータを収集し,データベース化するとともに,それを利用したリスク評価システムを構築するため,第1期において作成した化学物質データベース(Kis−Plus)をインターネット上に公開し,他の機関とのデータベースとのデータの共有を図る。また,文献調査によるデータ収集を行うとともに,既存データの少ない項目については,推算を行ってデータを作成する。データベースから欠落している農薬などの物質群に関するデータベースをKis−Plusデータベースとの統合を考慮しつつ作成する。また,暴露シミュレーションモデルや,リスク評価算定プログラムを作成し,これに必要な毒性情報などの入力を行うとともに,環境濃度データのデータベース化に必要な地理情報システム(GIS)の設計を行う。

〔内 容〕
第1期において,EUの既存化学物質データーベース(IUCLID)と神奈川県の化学物質安全情報システム(KIS−NET),さらに,約5千データの水・オクタノール分配係数(Kow),生態毒性などのデータ,発がんのユニットリスク,許容摂取量などの情報を追加したデータベースをKis−Plusとして提供した。このKis−Plusをいくつかの機関においてインターネット上で分散して管理することが可能となるように設計を見直し,国立環境研究所等でWWW上にて閲覧サービスの運用を開始した。大気や水質基準などの各種の法規制などをWWW上にリストできるようにし,CAS番号で上記データベースと統合した。また,外部データとのネットワーク化を促進し,CAS番号で物質を特定するサイト(米国EPAのIRISなど)には,直接内容を参照できるようにした。さらに,情報が少ない傾向があった農薬に関するデータベースを作成した。対象とする農薬を原体名(3,322件),農薬名(2,608件),商品名(6,176件),原体の含有量,農薬の県別出荷量(1992〜1998年度まで)を入力し,原体の県別使用量の表示,その農薬の商品名の一覧, 成分および含有量を表示することができるようになった。
 人間活動,環境中への汚染負荷の排出量,環境汚染の状態とリスクを総合的に記述するために,OECDで環境経由の人及び環境生物への暴露評価に妥当と評価されているモデルであるMulti−Phase Non−Steady State Equilibrium Model(MNSEM2)を地域特性を考慮した予測モデルに改変した環境リスク評価モデルを作成した。本モデルは,特性値の変動性や不確かさにより1桁程度の不確実性を有すると考えられた。
〔発 表〕D−27,d−33


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