1 有害金属の形態別分析技術の開発と地下水汚染機構解明に関する研究
〔担当者〕
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地域環境研究グループ
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: |
西川雅高 |
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化学環境部
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中杉修身・柴田康行 |
〔期 間〕
平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔目 的〕
近年,様々な有害物質による地下水汚染が顕在化し,その対策が緊急の課題となっている。一昨年に水環境基準項目,環境基準値の見直しや強化が行われて以来,ヒ素等の基準値を超える地下水汚染が,全国的に見つかっている。例えば,現在修復対策の始まっているトリクロロエチレン等でさえ水質環境基準不適合率は,当初3〜4%であったのに対し,ヒ素,ホウ素等によるその不適合率は環境庁の一次調査で既に10%を超えていることが明らかになっている。ヒ素等は,多価元素であり,その毒性や挙動は,存在形態によって異なることが知られている。また,処理技術の開発に当たっても,化学形態を考慮する必要があることは言うまでもないことである。こうした背景から,本研究は,ヒ素を中心とする有害元素による地下水汚染機構の解明について,存在形態を考慮した研究課題を立て,対象となる地方に密着した観測技術の確立と無害化/低減化技術の開発を目指すものである。
〔内 容〕
全国のヒ素に関する地下水汚染の原因は,人為由来というよりも自然由来に因ることが多い。こうした背景から,これまで得られている水質データの汚染源別因子解析とヒ素化合物の形態別分析法の確立,浄水処理技術の開発のためのベンチスケール実験,ヒ素化合物の毒性発現機構の基礎調査を柱とし,一連の共同研究を,福岡県,高槻市等地方自治体研究機関および国立公衆衛生院,国立医薬品食品衛生研究所と実施した。無機ヒ素およびモノメチルヒ素(MMA),ジメチルヒ素(DMA)の毒性について調査した結果,無機ヒ素化合物が,正常ヒト表皮角化細胞の増殖を促進すること,さらに細胞増殖を促す低濃度の無機ヒ素化合物が当初増殖因子により活性化されるキナーゼとして固定されたERK(Extracellular
Signal−Regulated Kinase)のリン酸化を亢進させることが明らかになった。さらに,無機ヒ素に比べて毒性が低いとされてきたDMAによってもERKのリン酸化が促進されることも判明した。このように有害なヒ素化合物は,形態別にその存在量を正確に把握されなければならない。環境水中に存在するとき,共存する濁質に吸着することが知られ,本年度は,濁質物質によるヒ素分析精度への影響について調査した。濁質成分の代表として,粘土鉱物のカオリンおよびMicrocystisの死細胞を用いた。それらによる吸着量は,実地下水,河川水で考えられる濁質量変化に対して1〜3ppb程度吸着することがわかった。環境水中のヒ素の低減化技術は,凝集処理による除去法,吸着法による除去法を検討した。凝集処理法における凝集剤は,硫酸アルミニウムと塩化第二鉄,硫酸亜鉛が有効であり,除去効率は,鉄系の方がアルミニウム系よりも無機態ヒ素(V価)の除去効果が高く,亜鉛系が最も低かった。吸着法は,活性アルミナ,セリウム系および鉄系吸着剤を使用した。活性アルミナ吸着剤では,ヒ素(V価)が効率よく除去(As/Al比,2.9 mg/g
)できた。鉄系吸着剤では,吸着効率がそれほど高くなく,As/Fe比 0.11mg/gであった。セリウム系では,吸着剤単位容積当たり1.4 g/lであり,III価V価の無機ひ素が区別なく除去できた。その他膜ろ過法による除去方法も検討したが,無機態III価のヒ素が最も処理し難かった。いずれの方法も,1ヵ月以上効率よく実地下水を処理するミニプラントが現在でも設計可能なことから,実用プラントの稼働もそう遠くないと期待される。
〔発 表〕B−90,92, b−180, 188
〔担当者〕
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地域環境研究グループ
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: |
木幡邦男 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
渡辺正孝・竹下俊二 |
| 地球環境研究グループ |
: |
原田茂樹 |
〔期 間〕
平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔目 的〕
兵庫県南部地震により,阪神地区の下水,排水処理施設が大きな損傷を受けたため,未処理水,各種廃棄物などによる流入汚濁負荷が増加した。このため総量規制の効果などで改善が進んでいた大阪湾の水質の再悪化が懸念された。特に,汚濁負荷の流入が集中する神戸地先では,水質等海域環境に大きな影響が出るものと考えられた。そこで,震災による流入負荷の変動や大阪湾の水質及び生態系の変動を克明に調査し記録して,今後の対策の基礎資料を作成することを目的とした。
また,突発的な負荷の変動と,それにより引き起こされる生態系の変動,内部生産の増加,底層の貧酸素化などの過程を正確に把握することで,富栄養化の機構解明を研究するための,ほかでは得られない貴重なデータの蓄積が期待された。さらに,過大な有機汚濁や栄養塩の負荷は底泥に蓄積され,後年にも影響が及ぶものと考えられた。そこで,流入負荷や底泥からの栄養塩回帰を考慮した大阪湾の生態系モデルを構築し,集積されたデータを用いて生態系モデルを検証することを目的とした。
〔内 容〕
(1)震災による大阪湾への栄養塩及び有機汚濁負荷増加の実態把握に関する研究
河川から流入する栄養塩の負荷につき,増水時の負荷量が大きいと言われてきたが,現在まで,極めてデータが不足している。本年度は,兵庫県を流れ,大阪湾に流入する5河川(武庫川,東川,夙川,妙法寺川,明石川)で,平成10年7月〜平成11年1月の増水時に5回,流入量及び流入負荷量の調査を行った。
(2)震災後の大阪湾における生態系及び海域環境の変動把握に関する研究
前年度に引き続き,本年度も長期にわたる震災の影響を調べるため,大阪湾にて5測点,播磨灘にて8測点を設定し,水質,生物量等の調査を平成10年5月〜平成11年1月に4回行った。播磨灘表層の水質は大阪湾表層に比べて良く,例えばCOD値では,播磨灘表層の値は大阪湾表層の値の1/2程度であった。大阪湾の一測点では,水質や栄養塩の鉛直分布に見られる季節変化を測定したが,その中の溶存酸素とリン酸態リン濃度に,底泥からの溶出による水質への影響が認められた。このことは,夏季に大阪湾,播磨灘の各3地点で採泥し,底泥の酸素消費速度と底泥からの栄養塩の溶出量を測定した結果,確認された。大阪湾における底泥からの栄養塩溶出速度は,TNで31〜45 mg/m2/day,TPで6.1〜36 mg/m2/dayであった。溶出実験21日目におけるリンと窒素との比は,1:2.8となり,貧酸素状態の大阪湾の底泥では窒素に比べてリンの溶出速度が大きいことが予測された。
(3)震災による負荷増加が大阪湾環境に与える影響の評価に関する研究
大阪湾・播磨灘を含む瀬戸内海全域を1kmメッシュで区切った3次元流動モデルを構築した。大阪湾・播磨灘について,計算された流速や,水温・塩分の水平・垂直分布は,実測値と良く一致し,負荷変動による大阪湾・播磨灘水質の変化を予測できるようになった。
〔発 表〕b−141,g−45, 46
〔担当者〕
〔期 間〕
平成9〜11年度(1997〜2000年度)
〔目 的〕
環境への負荷の少ない持続可能な社会の構築を環境基本法では基本理念としているが,その創造のためには「自立」「持続」「共生」の環境観に立った研究が必要とされる。それ故,汚濁負荷が流域内で生態系を保持しつつ,自己完結的に改善処理するリサイクル修復システムの確立は緊急を要する重要な課題である。しかしながら,大量生産・消費・廃棄型社会のもと,生活環境からは排水や廃棄物が排出され,河川・湖沼・内湾においては環境資源性の著しい低下が引き起こされている。
各種廃棄物の中には地域特性に依存する有用な資源が存在するが,これらを効率的に水質浄化,汚泥処理・再利用資源化を図ることで循環型地域完結システムの確立が可能になっていくものと考えられる。本研究では,微生物の代謝機構により汚濁物である排水を原料とした有用資源としての生分解性プラスチックの生成と水質浄化を連動させる相乗効果条件の解明や,有用微生物付着担体としての高密度機能強化微生物固定化リアクターの開発,カキ殻を充てんした有用水生植物植栽法,有用資源としてのセラミックス資源を用いた護岸システム,有用資源としての繊維廃材を活用した浄化ブロック・ネットによる汚濁湖沼直接浄化システムなどを開発し,バイオエンジニアリング,エコエンジニアリングによる高度水処理と余剰汚泥等の副産物の効率的活用を目指した総合的な水環境修復エコシステムを確立することを重要な位置づけとしている。
〔内 容〕
地域密着型環境研究としての本年度の取り組みとしては,前年度に明らかにした各地域における水質浄化に有効な資源や生物を活用し,水域の汚濁状況に応じた浄化プロセスを開発することをめざして,東京都,神奈川県,埼玉県,茨城県,福井県,広島県,広島市,岡山県の地方公設試験研究機関と,名古屋工業技術研究所,国立環境研究所との連携のもと推進してきた。特にアルミニウム,カキ殻等の廃材の脱窒,脱リン効果の高い有用資源の材料選定と浄化能付加強化改善技術の組み込み方およびその評価を行ってきた。その中でも,カルシウムを主成分とするカキ殻を活用したセラミックス,セメントを活用した嫌気好気生物膜法では,好気槽に充てんすることでリンおよび窒素の吸着反応とともに,アルカリ度の供給により硝化細菌の活性が高まるため生物学的硝化脱窒反応を高度かつ高速に行えることが明らかとなり,広島県,広島市などで問題視されているカキ養殖や生活排水に伴う汚濁水域の直接浄化対策として,大量に排出されるカキ殻の有効活用性を見いだした。また,廃アルミニウム缶を活用した電解脱リンプロセスではステンレス性の棒にアルミ缶を串団子状に刺し生活排水処理システ
ムに適用することで,BOD 10 mg/l以下,T−N 10 mg/l以下,T−P1mg/l以下の処理水の得る上では100 mA程度の電流が有効であることなどを明らかにした。さらに,水質浄化プロセスと連動した有用資源としての生分解プラスチックの生成に対し,潅流培養リアクターを活用することで乾燥菌体量を50〜100 g/lに高めることができ,この汚泥中に含有するParacoccus
sp.が生分解性プラスチックの生成に有効で,潅流培養リアクターの活用により生分解性プラスチックの大量生産技術として有効となりうることわかった。
〔発 表〕B−35, 38, G−6, b−46, 47,89, 90
〔担当者〕
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地域環境研究グループ
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: |
高村典子・加藤秀男
(*科学技術特別研究員) |
〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕
湖沼の水質は窒素とリンの現存量や負荷量との関連で議論されてきた。一方で,魚類群集が食物連鎖の下位の動植物プランクトンの量や質を左右し,水質を変化させる事実も報告されている。しかし,日本の湖沼では,まだその実態は全く明らかにされていない。十和田湖は,近年COD値が環境基準値の1ppmを越え透明度が確実に減少し,ウログレナによる赤潮が発生している。また,名物であるヒメマスの漁獲量が著しく落ちこみ,ワカサギが増え,これが本湖の生態系を大きく変化させている。本研究では,十和田湖を日本の貧栄養湖沼の一つのモデルケースと考え,貧栄養湖沼の様々な利用を考慮した総合的な湖沼環境保全のあり方を提示するために,沖と沿岸域,各々の場での生物群集の相互の関係を解明し,生態系構造およびその機能を明らかにする。
〔内 容〕
十和田湖沖に生息する動物プランクトン,細菌の密度,植物プランクトンの総量を表すクロロフィルa濃度と透明度は,ヒメマスとワカサギ両種のtrophic
cascade効果を極めて強く受けて変化していることがわかった。つまり,ヒメマスの漁獲量が高い時期は,大型の動物プランクトンが優占し,これらの摂食圧が高いため原生動物の密度が下がる。さらに原生動物の餌である細菌の量が増える。また,大型の動物プランクトンの活発な摂食活動により植物プランクトンの量が減り透明度が上昇した。一方,ワカサギの漁獲量が高い時期,もしくは双方の漁獲量が低い時期は,小型の動物プランクトンが優占し,これらの摂食効率が悪いために植物プランクトン量も原生動物の密度も増えた。細菌の密度は減るが,結果として透明度は下がった。従って,十和田湖の水質や水産資源にとって,ワカサギを駆逐しヒメマス中心の生態系構造を取り戻すことが望ましいと考えられた。
過去20年にわたり蓄積されたヒメマスとワカサギの資源調査のデータを解析した。ヒメマス年級群の放流数と年級群漁獲数との間には密度依存的な共倒れ型の競争関係が認められ,放流数が1,918千尾のときに年級群漁獲数が最大(175,855尾)となると推定された。ヒメマスの新規加入率は放流数が1,062千尾に達するまではほぼ一定(約10.9%)で推移するが,2,000千尾を超えると急激に減少すると推定された。したがって,十和田湖におけるヒメマスの適正放流数は1,000千尾程度であると考えられた。ヒメマスとワカサギの種間関係は,当歳魚間および2年魚以上の集団間において,一方が増えると他方が減る関係にあることが示唆された。ヒメマスとワカサギの漁獲量は,餌生物として重要なハリナガミジンコやヤマヒゲナガケンミジンコの密度に依存して変動するが,ワカサギは翌年春にのみ漁獲するために,その変化が1年遅れて現れると考えられた。