1.海域の油汚染に対する環境修復のためのバイオレメディエーション技術と生態系影響評価手法の開発(初年度)
〔担当者〕
| 水土壌圏環境部 |
: |
渡辺正孝・内山裕夫・越川 海・
牧 秀明 |
| 地域環境研究グループ |
: |
木幡邦男・樋渡武彦・稲森悠平・
水落元之 |
| 社会環境システム部 |
: |
田村正行 |
| 生物圏環境部 |
: |
渡邉 信・野原精一・矢部 徹 |
| 共同研究機関 |
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通産省工技院
物質工学工業技術研究所 |
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石上 裕・坂口 豁 |
| 兵庫県公害研究所 |
: |
古城方和 |
| アメリカ合衆国海洋科学局(NOAA) |
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下線は研究代表者を示す
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〔期 間〕
平成10〜15年度(1998〜2003年度)
〔目 的〕
平成9年のナホトカ号油流出事故は,我が国周辺海域における水産資源への被害のみならず,海岸部の貴重な生態系及び景観にも重大な影響をもたらし,このような被害は今後も生じる可能性がある。環境庁では「日米コモン・アジェンダ」に基づき油流出のもたらす環境への影響調査,バイオレメディエーションに関し日米協力を推進するとともに,油漂着海岸における栄養剤散布による土着性分解微生物を用いた浄化技術に関して環境影響及び有効性の両面から調査を行った。海外でのバイオレメディエーション実施例として,アラスカにおけるエクソン・バルディーズ号事故等の数例があるが,現場状況により浄化効果が左右される。また,生態系に対する安全性の問題が解決されていない。それ故,生態系への影響評価についてモデル生態系による評価解析と現場における実際の生態系に及ぼす影響評価解析を行うことが重要である。適正なバイオレメディエーション技術の確立のためには,有効性,安全性についての問題を解決することが不可欠である。本研究では,油汚染により損傷をうけた海域の環境修復を図るために,有効なバイオレメディエーション技術の開発ならびに生態系影響評価
手法の開発を行う。
〔内 容〕
平成10年度は研究計画書に記載された課題のうち以下の研究を遂行した。
(1)バイオレメディエーションを活用した重油分解の高度化技術の開発
バイオレメディエーション技術による油汚染浄化では,油分解菌のみならず油分散剤との併用が有効と考えられる。生態系及び動物影響の少ない分散剤として生物由来のバイオサーファクタントに着目し,その開発を行った。また,干潟模擬装置を作成し,栄養剤添加の有無による土着性分解能の比較を行った。
(2)底質を含む簡易モデル生態系(マイクロコズム)による重油分解と生態系影響評価手法の開発,重油分解微生物・分散剤・栄養塩等添加による生物影響評価
各種マイクロコズムを作成してそれぞれの特性を評価し,重油の生態系影響評価を行うに最適なマイクロコズムシステムの検討を行った。
(3)汚染現場生態系(メソコズム)における重油の自然分解とバイオレメディエーションによる効果の総合評価
兵庫県香住町海岸においてナホトカ号より流出・漂着した重油を用いて栄養剤添加の有無による分解性をそれぞれ測定,比較することにより,海岸域の自然浄化能の評価を行った。また,土着性分解菌の分解能促進のために散布する栄養剤が生態に与える影響を把握するため,海岸散布域周辺の間隙水中の栄養塩濃度を測定し,その挙動を解明した。さらに,栄養塩散布が生態系に与える影響を評価するため,散布域及び非散布域の細菌群集構造を解析するための手法開発を行った。
〔成 果〕
(1)バイオレメディエーションを活用した重油分解の高度化技術の開発
1)生物由来油分散剤の開発
トチ(マロニエ)の実よりバイオサーファクタント(エスシン)を抽出・精製し,海水,尿素,グルコース,水それぞれに溶かし,濃度と界面活性力の関係を調べた。エスシンは海水中においても強い乳化力を示し,従って,海域汚染への応用に有効であることが示された。また,大量培養が可能である微生物が産生するバイオサーファクタントについても検討した。バイオサーファクタントであるスピキュリスポール酸を産出するカビ「ペニシリウムスピキュリスポラム」は,大量に産生するため培養容器に結晶が析出した。スピキュリスポール酸は海水中ではマグネシウム塩となり,本塩は2−エチルヘキサノールがコサーファクタントとして存在すると,非常に高い粘度を呈し,ゲル化した。50℃以上で再び液化する。本結果は10%濃度で得られたが,2%でも同様にゲル化した。ゲル化の結果,試験管を逆さにしても落下しないほどに強固に固化し,テトラデカン等の炭化水素が混在していても,ゲルの編み目構造の中に捕集されてしまうと考えられる。これより,流出した油の回収に有効利用できることが示唆された。
2)油濁干潟装置を用いたバイオレメディエーションの有効性の検討及び環境への汚濁負荷に関する研究
潮汐を再現した模擬油濁干潟装置から発生するCO2の安定同位体比から栄養剤(Inipol
EAP22)散布によるバイオレメディエーションの有効性を検討した。また油・砂を通過した流出海水の水質分析を行い,散布した栄養剤の流出について検討した。油分解速度の促進効果は,栄養剤散布後約7日間認められ,対照に対して最大1.5倍であった。それ以後の分解速度は低下し対照と同程度であった。また10日目までの栄養剤添加系の流出海水中の有機態窒素濃度は非添加系に対して高く,栄養剤に含まれる有機窒素(尿素)がそのまま流出したと考えられたが,栄養剤窒素の全流出量10%前後であった。
(2)干潟モデルにおけるゴカイに対する重油の生態系影響評価
実験室内でゴカイ存在下の干潟モデルを用いた重油の生態系影響を検討したところ,ゴカイの存在により重油が底質へ浸透しやすい状態となり,ゴカイは重油が存在する環境であっても比較的生息できるものの,重油による物理的な呼吸阻害等の損傷を受けることがわかった。また重油自体が大きな負荷となり浄化能の低下を引き起こすが,速やかに回復することもわかった。
(3)兵庫県香住町佐古谷海岸部におけるナホトカ号流出重油のバイオレメディエーション現場実証試験
1)重油の分解評価
ナホトカ号より流出し,海岸部に漂着した重油まみれとなった現場に存在する礫・石を一ヵ所に集め,栄養塩散布区と非散布区(対照区)に分けた。栄養塩散布区には毎週栄養剤(Inipol
EAP22)を散布し,二週間ごとに重油の付着した礫・石を採取した。試験期間は6〜9月の3ヵ月間実施した。採取した礫・石より残存重油分を抽出し,各種機器分析を行ったところ,飽和・芳香族・レジン+アスファルテン各画分について,栄養塩散布区,非散布区(対照区)いずれの区においても有意な分解はみられなかった。個々の化合物の中では,ナフタレン,フルオレン等の比較的低分子の芳香族化合物の顕著な分解がみられたが,その分解速度について,栄養塩散布区,非散布区(対照区)間での有意な差はみられなかった。
2)野外試験区における栄養剤散布に伴う環境への汚濁負荷の検討
栄養剤散布区(毎週散布),対照散布区及びその周囲の間隙水を週1回2ヵ月間にわたって採取し,溶存態窒素・リン濃度の分析から栄養剤(Inipol
EAP22)の周囲への拡散,海域への流出について検討した。リン濃度は栄養剤散布の影響は顕著ではなかった。一方,溶存態全窒素濃度は散布区で蓄積が認められ,調査終了時は対照区の約22倍に達した。また散布区周囲への拡散は,陸側で少なく海側で多い傾向が認められた。散布区より陸側の間隙水は常に塩分が低く,一方海側は海水に近い塩分であった。従って散布区直下に移動した栄養剤は,干満に伴って海側に拡散していたことが示唆された。
3)栄養塩散布の微生物生態系に及ぼす影響評価手法の確立
自然生態系の微生物群集の大部分は従来の培養法では検出・単離できないため,16S
rDNAの塩基配列に基づいた手法により,栄養塩散布による細菌群集構造の変化およびその回復について解析を行った。栄養塩を散布した地点,周辺地点,および非散布区(対照区)から間隙水をサンプリングし,一般細菌の16S
rDNAをPCRで増幅した後にDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)で分析を行った。サンプリングは栄養塩を散布した8,9月,および栄養塩散布を停止して3ヵ月経過し12月にそれぞれの地点にて行った。DGGEのパターンを解析ソフトで解析して系統樹を作成し,各地点,季節間での微生物群集構造の相違度を検討した結果,栄養塩を散布しなかった地点11に着目して時系列変化をみると,バンドの相違性が9月の方が8月のそれより約20%増加していたが,散布停止後3ヵ月の12月では半分以下に低下した。これより散布区,非散布区の微生物群集構造が類似してきたことが明らかとなった。またDGGEパターンから多様性指数を算出し,それぞれの地点のサンプルについての時系列変化を調べた結果,8月では散布の中心地点での多様性が際立って低かったが,12月にはいずれの地点でもほとんど同一値になった。このことから,栄養塩散布が行われた区では特定微生物が生育・優占化した結果,多様性指数が低下し,12月では既に栄養塩濃度も元に戻り,散布しなかった地点と同様な微生物群集に回復したことが示唆され,影響評価を行うに有効な手法であることが示された
。
〔発 表〕B−28, 39, b−23,70, 74, g−16, 17,
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