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研究者に聞く!!

試験生物:魚類(メダカ)(左) KATEシステムの開発現場(右)

化学物質汚染の過去を明らかにする

Q:今までどんな化学物質を分析しましたか。

柴田:重金属に加え、PCBやDDT、ダイオキシン、ベンゾピレンなど多くの有機化合物を分析しました。最近では、新たな汚染物質として注目されるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などの有機フッ素化合物を分析しています。

Q:保存試料からどんなことがわかりましたか。

柴田:船底塗料に使われていた有機スズ化合物は沿岸生物に毒性が強く、2001年に規制のための国際条約が締結されました。国内では1990年前後に自主的な取り組みや監督省庁からの指導が進み、濃度レベルが下がったことが期待されましたが、従来の分析法では感度が低く検証が十分にできませんでした。その後、新たに開発された高感度分析法で、保存試料を再分析したところ、1990年頃を境に有機スズの濃度が減少しており、自主取り組みや指導の効果を確認できました(図4)。それから1997年のナホトカ号重油汚染事故を覚えていますか?

Q:タンカーが沈没し、北陸沿岸が重油で広く汚染され、多くの人々がボランティアで回収や除染作業をした事件ですね。

柴田:その地域の汚染調査も行っています。沿岸の二枚貝中の汚染物質の濃度を定期的に測定したところ、事故後数年でほぼ事故前のレベルにまで戻っていることがわかりました(図5)。過去の保存試料と比較することで、汚染がどれくらい深刻なのか、除染などで環境が修復したのかを確認できます。

図4 新たな分析手法による保存試料の再分析

■図4 新たな分析手法による保存試料の再分析

環境省が毎年行っている「化学物質環境実態調査」では、東京湾ウミネコ(1982年から採取)の胸筋中の有機スズ(トリブチルスズTBTおよびトリフェニルスズTPT)濃度を、それぞれ1985年並びに1989年から分析しています。残念ながら従来の分析方法(GC/FPD)では感度が足りず、1989年と1990年のTPTを除いて有機スズを検出できなかったため、その変化の様子がわかりませんでした(左図:矢印はTBT(緑)ないしTPT(ピンク)の検出限界を示す)。新たな高感度な分析方法(GC/AED)で保存試料を再測定した結果、いずれも1980年代前半から後半にかけてほぼ一定の濃度で推移し、1990年頃を境に濃度が低下し、規制の効果が上がっていたことが確認できました(右図)。なお、縦軸は試料中の有機スズ濃度で、対数軸で表されています。

図5 重油汚染事故のフォローアップ

■図5 重油汚染事故のフォローアップ

1997年に日本海側で起きた重油汚染事故の際には、福井県から石川県にかけての沿岸で二枚貝や水などの採取と分析を行いました。事故後の経過を監視するため、二枚貝の採取と分析をその後数年間継続して行いました。ナホトカ号の重油に含まれる特徴的な成分のパターンを手掛かりとし、特に二枚貝中のベンゾピレン濃度に着目して分析を継続した結果を図に示します。横軸は採取年月日、縦軸はその時とった沿岸各地点の二枚貝中ベンゾピレン濃度を対数軸であらわしています。事故直後はかなり高かったベンゾピレンの濃度は、その後数年の間に次第に下がっていきました。幸い、事故前に近くで二枚貝を採取し保存しており、その分析から事故前の濃度が0.1ng/g程度であったことがわかりました。この結果から、2003年には生体影響が懸念されるベンゾピレン濃度がほぼ事故前に戻ったことがわかります。

Q:その他どんな成果が得られましたか。

柴田:タンチョウの死因調査の際も、ほかの機関に保存されていた試料が対策に役立ちました。北海道で見つかったタンチョウの死がいの調査を依頼され、分析した結果、ある農薬の蓄積が高濃度に見つかり、農薬中毒死と判断しました。これをうけて釧路に保存されていた死因不明のタンチョウ試料を北海道の研究機関で分析した結果、さらに2体から同じ農薬が見つかり、同様の事故が過去にもあった可能性が高まりました。これがきっかけで、この農薬の使用制限がさらに徹底されました。

今は東日本大震災の環境影響を調べるために、東日本太平洋側の過去の採取地点と同じところで二枚貝の採取を実施し、各種汚染物質も分析しています。

スペシメンバンキングの将来

Q:保存試料がさまざまに活用されているのですね。

柴田:監視の対象を沿岸から陸域まで広げることも課題です。二枚貝や魚では陸上の環境を監視できないため、トンボによる陸域環境モニタリングを検討し、この結果をもとに、全国各地のトンボを捕まえて化学物質の環境レベルを調べる「トンボプロジェクト」を行っています(コラム参照)。

Q:トンボも保存しているのですか。

柴田:幸い多くの市民の方々にご協力いただき、全国各地のトンボを送っていただきました。「環境の監視のため」と協力をお願いしたところ、以前に環境汚染が問題となった場所の近くや山間部のごみ埋め立て処分場のそばにわざわざ出かけて採取してくださる方もあり、市民の皆さんの環境問題に対する意識の高さを改めて感じました。トンボプロジェクトでは地方自治体研究者ともネットワークを作り、試料を収集していますが、市民の皆さんのおかげで、濃度の高い地点や発生源の情報を自治体研究者と共有できました。たくさんの試料をお送りいただき、思ったより分析に時間がかかっていますが、早く測定結果をみなさんにお返しできるよう、頑張っています。

Q:スペシメンバンキングには、さまざまな意義がありますね。

柴田:スペシメンバンキングは環境モニタリングを補完する重要な活動です。ストックホルム条約という化学物質対策に関わる国際条約でも意義が認められ、条約を支える事業の一つとして位置づけられました(「研究をめぐって」参照)。保存試料の活用例には、遺伝子配列の解析による生物進化の研究など、予想もしなかったものもありました。汚染監視だけでなく、環境研究の推進に役立つ基盤的な意義も持たせることができます。

スペシメンバンキングの推進には多くの作業が必要な上、さまざまな協力も欠かせません。こうした地道な活動を世代をこえて伝えていくことの重要性をもっとアピールしなければと思っています。



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