研究者に聞く!!

写真左:白石寛明/ 環境リスク研究センター・センター長
古濱彩子/ 同研究員
写真右:KATE システムの開発担当者
化学物質の有害性を評価するためには、生態系への影響を調べる必要があります。化学物質の形、つまりその構造から生態毒性を予測するシステムKATEを開発している、環境リスク研究センターの白石寛明センター長と古濱彩子研究員にお話をうかがいました。
化学物質の毒性を予測するために
生態影響を評価する
Q:なぜ、生態毒性を予測するシステムの開発を始め たのですか。
白石:化学物質審査規制法(化審法)の改正により、化学物質の生態系への影響評価が化学物質の審査・登録に導入されたことが、直接の理由です(解説参照)。私たちの身の回りには、たくさんの化学物質があります。現在、流通しているものだけでも数万種類あるといわれます。私は、国立環境研究所(当時は公害研究所)に入所以来、化学物質の環境中での挙動を調べたり、その計測方法を開発してきました。そして、生物系や健康系の研究者とともに現場調査をし、化学物質の環境への影響を把握する研究を行ってきたのです。
日本では、化学物質の影響評価として、人に対する影響に注目することが多かったのですが、10数年前に環境ホルモン(内分泌かく乱物質)が問題になったころから、野生生物への影響、特に水生生物などに影響を及ぼすと考えられる化学物質の存在も確認されるようになりました。諸外国の制度では、人の健康とともに環境(生態系)の保護を考慮した化学物質の審査・規制と毒性の評価が行われていましたが、日本ではそういう考え方での審査・規制は行われておらず、国立環境研究所においても環境中の動植物に対する毒性を予測する研究は活発ではありませんでした。

■図1 生態毒性予測システムKATEの概要
化学物質の構造情報により、魚類とミジンコの毒性の予測結果を得ることができます。 例えば、図左上の構造の物質を入力すると、 FITSと呼ばれる独自に開発したシステムでアニリン(青色)などの特徴的な部分構造を取得し、アミドやケトンなどの他の部分構造との分類を行った上でアニリンとして毒性を予測します。同時に信頼できるかどうかを判断する情報を得ることもできます。
なお、KATEにはパソコンにインストール して使用するスタンドアロン版「KATE on PAS」とブラウザ画面で操作するweb版「KATE on NET」があります。
Q:そもそも生態影響とはどういう意味ですか。
白石:化学物質の使用、河川改修、外来生物の導入といった人の活動によって起こる生態系への影響をいいます。生態系は多様な生物と生息する環境が密接に関係し、かつ、複雑に絡み合っているので、化学物質の使用と生態系の関係を把握することはとても困難です。このため、化学物質による生態影響は、生態系を構成する重要な生物種に対する毒性をもとに判断されています。
毒性学は、毒性、すなわち物質などによる生物への悪影響に関する科学の分野で、法的規制の基礎を研究する規制科学として重要です。そこでは、特に、野生生物に対する毒性を生態毒性といっています。
Q:生態毒性をどうやって調べるのですか。
白石:例えば、人工池や人工河川のような模擬的な構成物を作って生態系への影響を調べる試験方法から化学反応を調べるような試験管内での試験までいろいろな方法があります。
個別の生物についての試験では、多様な生物種に対するものが考えられますが、主に藻類、甲殻類、魚類の3種類の水生生物に影響を与える化学物質の濃度を調べています。藻類では特定の単細胞緑藻、甲殻類ではミジンコ、魚類は日本では主にメダカを使います。この3種類は、水系食物連鎖における生産者、一次消費者、高次消費者という関係にあります。
簡易試験では、急性毒性を調べますが、必要に応じて慢性毒性試験も行います。急性毒性は、化学物質を生物に投与した直後から数日以内に生じる毒性をいいます。一方、慢性毒性とは、動植物の寿命に相当する長期間にわたって、化学物質を投与したときに生じる毒性をいいます。試験方法は、経済協力開発機構(OECD)や化審法のガイドラインに基づいて、試験手順が定められています。
Q:すべての化学物質に対して試験を行うのは大変ではないですか。
古濱:世の中には数万種類の化学物質が流通していますが、すべての化学物質に対して試験を行うことはとてもできません。それに、どの物質から試験を行うのか、優先順位付けをすることも必要です。そこで、定量的構造活性相関(QSAR)を利用しようという動きが国際的に広まってきています。
解説 化審法
化学物質審査規制法の略称。PCB(ポリ塩化ビフェニル)による環境汚染問題を契機に1973年に制定されました。環境中で容易に分解されない難分解性で人の健康を損なうおそれがある化学物質による環境の汚染を防止するための法律でしたが、国際的な動向を踏まえ、化学物質による人や動植物への影響の防止や化学物質を包括的に管理するための改定がなされてきました。
私たちは、労働環境、食品や医薬品の摂取、化学製品の利用時のほか、汚染された大気、水、土壌といった環境を経由しても化学物質に曝露されます。大気汚染防止法や水質汚濁防止法、土壌汚染防止法では、排出された化学物質が大気や水、土壌を汚染しないよう規制していますが、化審法では、環境を経由して化学物質が人や動植物に影響が生じないよう、製造や輸入など入り口の段階で規制しています。このため数多くの化学物質が審査対象になり、QSARの活用が検討されています。

