研究者に聞く!!
Q:どうやって確認したのですか。
平野:電子顕微鏡で、肺胞の様子を観察したのです。すると、カーボンナノチューブに、マクロファージの細胞膜が強く反応しているのがはっきりと見えました(図4)。また、カーボンナノチューブはマクロファージに対して強い細胞毒性を示すことがわかりました。
Q:ほかの細胞ではどうでしたか。
平野:気管支の上皮細胞への影響も調べました。アスベストの影響と比べたのですが、細胞に対する毒性は、マクロファージと同様にアスベストより強いものでした(図5)。
■図5 カーボンナノチューブの 細胞障害毒性
アスベストの一種であるクロシドライト(青石綿)を比較対照用の繊維状粒子として用いて、カーボンナノチューブにどれくらい強い細胞障害性があるのかを調べました。細胞には、呼吸器に関連するマクロファージ(a,b)と気管支上皮細胞 (c,d)を用いました。 縦軸の100%は細胞がすべて生きている状態、0%は細胞がすべて死んでしまった状態を表します。ここのグラフは、カーボンナノチュー ブではクロシドライトより低い濃度で細胞が死んでしまうことを示して います。これはカーボンナノチュー ブがクロシドライトより細胞障害性 が高いことを意味しています。 (TAAP, 249 : 8-15)
Q:カーボンナノチューブはアスベストより生体への影響が大きいのですか。
平野:今のところ、細胞毒性はアスベストより強そうです。ただし、カーボンナノチューブの繊維の長さによって、毒性が変わるようです。繊維の長さと毒性の関係について、もっと詳細に調べていきたいと思っています。
Q:なぜ、マクロファージがカーボンナノチューブを取り込むことができるのでしょうか。
平野:その詳細はわかっていませんが、マクロファージには、ナノマテリアルを効率よく取り込む性質があるようです。マクロファージの表面には、カーボンナノチューブなどナノマテリアルを取り込む受容体があるといわれています。そこで、その遺伝子を使って、その受容体を発現する細胞をつくり、カーボンナノチューブの取り込み実験を行いました。この研究により、マクロファージが受容体を介して、カーボンナノチューブを取り込んでいることがわかりました。この機構を詳細に調べれば、肺胞表面に沈着した粒子状物質を、どのようにしてマクロファージが貪食して粒子を除去するのか、その仕組みがわかると思います。
形が変われば毒性が変わる
Q:開発が進むナノマテリアルですが、ナノサイズにまで小さくなった粒子は生体に悪いということになってしまうのでしょうか。
平野:たしかにサイズが小さいほど、生体への影響が大きくなるといえるのですが、形や長さも大きく影響するようなのです。電子顕微鏡を使って、細胞内へ取り込む様子を観察すると、丸い粒子状のものは、細胞内に取り込まれても安定した状態ですが、繊維状のものは、長いため細胞内に取り込まれずにほかの細胞を傷つけたり、細胞内に入っても、核を傷つけたりするようです。アスベストでは、800℃に加熱すると結晶構造がくずれ、繊維状でなくなると、毒性が失われることがわかっています。
Q:繊維状のほうが生体への影響が大きいということですか。
平野:生体内で分解されにくい繊維状の粒子についてはそのように考えています。アスベストと同様に、繊維の長い粒子が強い影響を示すと考えています。
Q:形が変わると毒性も変わるということですか。
平野:そうです。同じ物質でも形が変われば、物性が変わるとともに生体への影響も変わります。アスベストは発がん物質ですが、その作用は物理刺激によるものなので「物理発がん」と呼んでいます。繊維という形状が生体影響に大きく影響していると考えています。化学物質としてではなく、物性から毒性を見るということは今まであまり取り組まれてこなかった考え方です。そこで、ナノマテリアルの毒性研究分野である「ナノトキシコロジー」では、毒性を物性から評価することを重視しています。でも、まだその試験方法は確立していません。
Q:今後はどのように研究を進めるのですか。
平野:ナノマテリアルは、そのすぐれた機能から、今後もますます多く使われることになるでしょう。そこで、安全にナノマテリアルを使うための国際的に合意された共通のガイドラインを一刻も早くつくらなければなりません。そのために、ナノマテリアルの毒性を評価する手法の開発に力を入れています。カーボンチューブに加え、化粧品などで使われる銀ナノ粒子や二酸化チタンにも注目しています。生産量も多く、使っている消費者も多いですからね。リスクばかりを考えるとせっかくの技術も進みませんから、安全にそしてベネフィットを最大限にいかしたナノマテリアルの使用に貢献できるようにしたいと考えています。
