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研究者に聞く!!

写真左:平野靖史郎/環境リスク研究センター・健康リスク研究室室長 写真右:健康リスク研究室のメンバー

写真左:平野靖史郎/環境リスク研究センター・健康リスク研究室室長

写真右:健康リスク研究室のメンバー

ナノマテリアルは、新たな機能が期待される工業材料ですが、人の健康や環境に対する影響については、まだ明らかではありません。ナノマテリアルの生物体内での挙動やその毒性評価を研究している環境リスク研究センター・健康リスク研究室の平野靖史郎室長に、研究の成果やナノマテリアルをめぐる研究の動向をうかがいました。

ナノマテリアルの安全性を評価する

分子・原子レベルのサイズになった工業材料

Q:近年、「ナノマテリアル」ということばをよく耳にします。ナノマテリアルとは何ですか。

平野:「ナノ」サイズとは、「1mmの100万分の1の長さ」を表すことばです。これに、「材料」を意味する「マテリアル」を結合させた「ナノマテリアル」は、「ナノテクノロジーにより生み出された材料」という意味です。すなわち、大きさが1〜100nmの小さな構造をもつ物質です。球形をした粒子もあれば繊維状やシート状のものなど、形状もさまざまですが、それらをすべてナノマテリアルと呼んでいます。

Q:とても肉眼では見えない大きさですね。

平野:1nmより小さな粒子は、もう分子や原子に近いサイズですからね。100nmより大きい粒子は、従来の粒子の扱いになります。ナノサイズの粒子は、通常の光学顕微鏡では見ることができないくらい小さいので、観察したり、測定したりするのはとても難しいことなのです。

Q:ナノマテリアルには、どんなものがあるのですか。

平野:ナノテクを利用してつくられた工業用材料がナノマテリアルですが、実際ナノマテリアルはずいぶん私たちの身近なところで使われているんですよ。大きく分けると、フラーレンやカーボンナノチューブのような炭素系、銀ナノ粒子や二酸化チタンなどの金属系、デンドリマーなどの有機ポリマー、それに二酸化ケイ素などのセラミック系に分けられます(図1)。これらは、触媒や液晶などに使われますが、最近では医療や化粧品への応用も期待されています。

一口にナノマテリアルといっても、化学物質としては炭素、金属、セラミックス、有機高分子やこれらを複合的に含むものもあります。また、ナノマテリアルの種類がさらに増えていることから、総合的にナノオブジェクトとも呼ばれています。

ナノマテリアルはさまざまな工業用製品に使われていますが、日焼け止めクリームに用いられている二酸化チタンや消臭剤として使われている銀ナノ粒子などは、日用品として使われており、馴染のあるナノマテリアルです。

図1 ナノマテリアルの種類

■図1 ナノマテリアルの種類

Q:医療や化粧品にも使われているのですか。

平野:医療用としては、ドラッグデリバリーシステムといって、体内の目的の場所に薬を効率よく運ぶためのカプセル材料などに使われます。酸化チタンや酸化亜鉛は日焼け止めクリームやファンデーションに、銀粒子は消臭スプレーに使われています。

これら化粧品に使うようになったのはずいぶん前からですが、最近の日焼け止めクリームは白くならないでしょう。物質の粒子がナノサイズにまで小さくなったので、光の反射が抑えられているためです。

注目されるナノマテリアルの安全性

Q:そういえば、最近の日焼け止めクリームは塗っても白くならないし、さらさらしています。こんな身近な物質が、生体に影響するのですか。

平野:10年ぐらい前から、ナノ粒子は、サイズが小さいので、細胞や組織の中に入りやすいのではないかと言われていました。自動車の排ガス中のナノ粒子が、これまで研究されてきた比較的大きな粒子とは異なる機序で健康に影響する可能性があるとヨーロッパの研究グループを中心に、指摘されたことをきっかけに、ナノ粒子の安全性が注目されるようになりました。

また、2000年当時に米国のクリントン大統領がナノテクの推進を掲げてから様々なナノマテリアルが市場に出回るようになると、ナノマテリアルの健康への影響や環境への影響が危惧されはじめ、世界中でナノサイズの構造をもつ物質、すなわちナノマテリアルの安全性評価の研究が始まりました。

Q:先生がナノマテリアルの安全性についての研究を始めたきっかけは?

平野:かつて、アスベストの研究をしていたことが根底にあるからです。現在は、アスベストの有害性が明らかになっていますが、以前は、アスベストは夢の繊維といわれ産業を支える重要な素材でした。

私は30年ほど前に、国立環境研究所(当時は公害研究所)に入所しましたが、その時の上司が、環境中にこれから増えていくアスベストの健康影響にすでに注目していました。そして、新人の私に研究するように勧めてくれたのです。その時のアスベストの毒性に関する研究経験があったおかげで、取り扱うのが難しいナノマテリアルにも、比較的容易に取り組むことができました。

Q:アスベストもナノマテリアルなのですか。

平野:形状からは、アスベストのことを天然に存在するナノマテリアルと呼んでもよいと思います。アスベストは髪の毛よりも非常に細い繊維状の粒子で、吸入することにより肺に沈着し、中皮腫や肺がんを起こします(コラム参照)。

Q:同じことがナノマテリアルでも起こるのですか。

平野:まだ、はっきりしていませんが、繊維状のナノマテリアルがアスベストと同じような健康影響を及ぼす可能性はあります。ですから、生体への影響の研究をさらに推し進めなければなりません。これまでの研究から、数十nmのナノ粒子が肺胞領域に沈着しやすいことがわかりましたが、繊維状粒子に関してはまだ研究段階にあると思います。

アスベストや環境ナノ粒子とナノマテリアル

アスベストは天然に存在する繊維状の鉱物繊維で、肺に沈着した場合に肺がんや中皮腫を起こすことが知られています。中皮腫は肺や胸腔内を覆っている漿膜に起こるがんです。アスベストになぜこのような生体影響があるのでしょうか。まず、アスベストは水に溶解しにくく肺胞内に長くとどまることが理由としてあげられます。また、アスベストの繊維径が数十nmと、極めて細いために肺組織を通過して肺の外側、すなわち胸腔内にまで達することが、中皮腫を起こす原因だと考えられます。ナノマテリアルの代表的物質であるカーボンナノチューブは、形状が極めてアスベストに近く、また炭素素材ですので生体内で溶解することもありません。そのため、アスベストと同じような健康影響を及ぼすのではないかと危惧されています。アスベストの生体影響については多くの研究報告があり、ナノマテリアルの毒性研究を進める上で役立っています。

一方、大気中にも様々な粒子が存在しています。特に、交通量の多い道路の交差点には20〜30nmの粒径をもつ環境ナノ粒子が多く存在することが知られています。ナノマテリルが工業用製品として意図的に生産されることから、環境ナノ粒子のことを「非意図的ナノ粒子」と呼ぶこともあります。2009年9月にはPM2.5(2.5μm以下の大気中微小粒子)の環境基準が設定されましたが、2.5μm以下の粒子の中でも環境ナノ粒子のように超微小粒子の生体影響については不明の点が多く、吸入曝露実験を中心として環境ナノ粒子の生体影響に関する研究が進められてきました。

アスベスト、環境ナノ粒子、ナノマテリアルの生体影響に関する研究を進める上で共通していることは、これらの物質は不溶性あるいは難溶性の粒子状物質であり、粒子の表面が細胞や生体物質との反応の場になっていることです。これが、体内に吸収されて毒性が現れる通常の化学物質の場合と異なる点で、粒子状物質の研究で注意しておかなければいけない重要なポイントです。粒子状物質の生体影響の研究をした経験をもとに、はじめて精度の高いナノマテリアルの毒性研究ができると考えています。



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