研究者に聞く!!

白石不二雄/環境リスク研究センター/
曝露計測研究室 室長
培養細胞や微生物を用いた in vitro バイオアッセイは、化学物質の毒性を評価するために幅広く利用されています。この試験法には安価で迅速に測定を行えるという特長がありますが、測定する化学物質に応じて、効果的な試験法を開発する必要があります。国立環境研究所で行われてきた様々な in vitro バイオアッセイの開発について、環境リスク研究センター曝露計測研究室室長の白石不二雄さんにうかがいました。
様々な環境汚染を in vitro バイオアッセイを用いて評価する
1: ガス状光化学反応生成物の培養細胞への曝露方法の開発
Q: 国立環境研究所で開発した in vitro(インビトロ) バイオアッセイについて、時系列でお話しください。
白石:一番目は、ガス状大気汚染物質の毒性を培養細胞で評価するための試験系の開発でした。国立公害研究所に入所(1976年)したとき、その当時は大気汚染がひどくて、光化学スモッグも問題となっていました。光化学スモッグはガス状なものですから、これまでの in vitro バイオアッセイ手法では試験が困難であろうということで、ほとんど試験されてなかったのですが、とにかく培養細胞を用いて光化学スモッグの毒性を調べてみろということで、取り組みました。
バイオアッセイは、日本語で「生物検定法」あるいは「生物評価法」と訳されています。 in vitro とは試験管内を意味し、主に培養細胞や微生物を用いた毒性試験を in vitro バイオアッセイと定義しています。 in vitro バイオアッセイは、 in vivo(インビボ) バイオアッセイに比べて安価で、試験にかかる時間は短く、例えばDNA損傷など遺伝毒性や受容体との結合活性などの作用機構を簡便に調べられる利点があります。
■図1 バイオアッセイの分類と特徴
Q: ガス状のものを in vitro で毒性を調べるのは、むずかしかったのではないですか。
白石:国立公害研究所の大気環境部という部署では大気汚染物質の計測や光化学スモッグの生成メカニズムの研究などをしておりましたが、光化学スモッグは生物に対して毒性があるのか、評価したいということで所内プロジェクト研究として行うことになりました。当時は、ガス状大気汚染物質のNO2やオゾン(O3)などの健康影響が問題になっていまして、そういうものと比べて光化学スモッグはどのような毒性を示すのか、ということで in vitro の試験法の開発を始めました。ガス状大気汚染物質の毒性についてはNO2などを用いて、いろんな手法の in vitro のガス曝露試験法が開発されていました。それらを真似てやるんですけれども、どれも眉つば物なんですね。それまでに報告されている試験法を検証しつつ、新たに自分で開発していったということで、ようやく光化学スモッグの毒性を評価できる試験系を開発しました。当時、光化学スモッグシミュレートガス(光化学スモッグを模倣した光化学反応生成ガス)を作成するチャンバーも高性能な装置であり、最先端の手法で詳細に測定された光化学反応生成物を曝露できたということで、他の研究機関では真似のできない試験システムが構築できました。
Q: 細胞の種類を選ぶとか、培養の方法を考えるとか、曝露の方法を考えるとか、いろいろな工夫があったと思います。どのあたりがポイントだったのでしょうか。
白石::曝露の方法ですね。培養細胞というのは、もともとは液体培地の中で乾燥させないように培養するというのが常識なのですが、それにわざわざガスを曝露しろというのですから、非常に矛盾した発想なんです。一番先に考えるのは、培地にガスをバブリングして溶かして曝露すればいいじゃないかと。ところが、その方法で行いますと、光化学スモッグなどの不安定なガスは、反応性が高いので培地にバブリングすると培地の成分と反応してしまう。安定化してしまうとガス状物質本来の毒性が評価できない。では、どうしたらいいかということで、ガラス製の4面がフラットの細胞培養用の角瓶があるんですが、細胞を1面で培養しますと付着して単層に増殖します。培養角瓶をゆっくりと回転させると培地に浸されていた細胞は、だんだんと液面から上がってきますよね。同時にその瓶の中にNO2とか光化学スモッグシミュレートガとかを流しておけば、液面からむき出しになった細胞はガスと接触します。
Q: その場合、培養瓶の上半分は水がないわけですね。
白石::そうです。少量の培地がそのまま下にあります。
Q: 細胞層が上がってくるからその間に曝露させるというわけですね。
白石::そうです。そうやって4分間に1回転するようにしますと、1分間は液体の中に入っていますけれども、残り3分間は液面から出てきますので、その間にガスに曝露する。つまりガスを細胞の表面に近づけることで、反応性の高いガスはより影響が検出できるということになります。当然、対照にはきれいな空気を流して比較しながら試験しました。培養瓶を回転させながらガスを接触させる曝露方法ですと、安定したデータが得られるようになりました。再現性の高いガス曝露試験法を確立したということです。
Q: 細胞層が上がってくるからその間に曝露させるというわけですね。
白石::そうです。そうやって4分間に1回転するようにしますと、1分間は液体の中に入っていますけれども、残り3分間は液面から出てきますので、その間にガスに曝露する。つまりガスを細胞の表面に近づけることで、反応性の高いガスはより影響が検出できるということになります。当然、対照にはきれいな空気を流して比較しながら試験しました。培養瓶を回転させながらガスを接触させる曝露方法ですと、安定したデータが得られるようになりました。再現性の高いガス曝露試験法を確立したということです。
Q: そうなんですか。この方法は今でも使われているのですか。
白石::このガス曝露方法を用いたシステムは、神奈川県秦野市にあります日本バイオアッセイ研究センターで国や民間の受託試験に用いられています。
Q: どのような用途に使われていますか。
白石::例えば、いろいろな工業分野で開発されたガス製品に毒性があるのかどうかを調べるために、まず、 培養細胞へのガス曝露試験を行って簡便に一次スクリーニングを行うことができます。
培養細胞の毒性試験においては、通常化学物質は細胞の培養液に溶解または懸濁して培養細胞に処理しますが、ガス状或いは揮発性の化学物質は、その方法では細胞との接触ができません。そこで気層にある化学物質を培養瓶に貼り付いている細胞に接触させやすくし、かつ細胞の培養が可能なガス曝露法(ガス回転曝露装置)及び低沸点化合物曝露法(密栓回転曝露装置)を開発しました。ガス回転曝露装置(写真左)と密栓回転曝露装置(写真右)では、培養瓶が装置内で回転し、気層及び培養液中の化学物質を交互に細胞に接触させる仕組みになっています。
■図2 ガス回転曝露装置(左)と低沸点化合物曝露法(密栓回転曝露装置(右)
(図は日本バイオアッセイ研究センターのホームページから引用) )
