研究者に聞く!!

写真左:横田達也/地球環境研究センター GOSATプロジェクトリーダー
写真右:シャミル・マクシュートフ/地球環境研究センター GOSATプロジェクトサブリーダー
2009年1月に温室効果ガスを測定する観測技術衛星「GOSAT」が打ち上げられました。「GOSAT」は打ち上げ後、すでに2年以上になり、順調に温室効果ガスの観測データを送り続けています。このプロジェクトに携わっておられる国立環境研究所GOSATプロジェクトリーダー横田達也さんと、サブリーダーのシャミル・マクシュートフさんにお話をうかがいました。
地球上の温室効果ガスを宇宙から計測
1: 環境省、国立環境研究所、JAXAの三者の協力関係が功を奏す
Q: 最初に、お二方のこれまでの研究歴からお話をうかがいたいと思います。
横田:私はこの3月31日で環境研究所に30年間いることになります。大学院の頃からリモートセンシングを専門にしており、最近の20年以上は人工衛星のデータ処理に関与し、このGOSATのプロジェクトが3回目の衛星観測プロジェクトにあたります。最初の2つは、当時の地球環境問題であったオゾン層の破壊を監視するための日本で初めての衛星センサILASとILAS-IIです。残念ながらいずれも計画では3年動くはずのものが8カ月で止まってしまいました。今回のGOSATは3度目の正直というか、打ち上がってから2年以上、今も元気に動いています。
また、これらの衛星のデータ処理手法には共通する点があります。非線形最小二乗法といって、大気の衛星観測プロセスを計算機の中に高精度にシミュレーションして、測ったデータの状況に合わせて解くという手法を用いるのですが、違いは信号の強さにあります。オゾン層を測るセンサは大気をかすめて届く太陽の直達光を測るので非常に信号が強いのですが、GOSATは地球からはね返って来る光を受けるので弱い。ですからノイズとの戦いという意味では、今のGOSATは、届く光の信号が弱いため難しさがあります。また、オゾン観測センサでは気体の成層圏での高度分布を出せるのですが、GOSATでは「カラム量」(地表面付近の濃度を含む地球表面から大気の上端までの気体の積算量)しか測れません。それから、オゾン層観測センサのデータ処理手法は、欧米の既存センサを手本にできたのですが、このGOSATプロジェクトは世界とも横並びで協力し競争しているものですから、研究は最先端、最前線でしたので難しさがありました。
マクシュートフ:私が環境研に来たのは20年前でした。その時は大気化学シミュレーションモデルを研究する目的で、オゾンや大気汚染物質が対象でしたが、環境研や環境省では温室効果ガス研究にフォーカスを移そうという動きの中で、我々もそれに力を入れるようになりました。初めは地上モニタリングやシベリアでの航空機観測を行い、そのデータの解析とモデルのシミュレーションがメインの仕事でした。取得したデータからどのように地表面でガスの吸収や排出がなされるかを推定するモデルです。モデル開発を進めながら、データも蓄積され、推定がうまく行くようになったのは大体10年前です。私は2000年から5年ほど一時的に環境研の外に出て、JAMSTECとNASDAの共同プロジェクト「フロンティア」に参加しました。そこに東北大学の中澤先生をリーダーとする温室効果ガスグループができ、そのグループの中で、濃度の観測データから吸収・排出量を推定するという研究を進めました。その研究との繋がりから実際にGOSATで同様のモデルを開発する必要が出てきて、私はまた環境研に戻りました。
横田:補足をさせていただくと、このGOSATプロジェクトは環境省・JAXA・私どもの三者の共同プロジェクトですが、従来の衛星とは違って気体の濃度データを出すことだけが目的ではない。そのデータを吸収・排出量の推定モデルに利用することも目的の1つです。そのアウトプットを環境研から出すために、所定の手続きの後にマクシュートフさんにフロンティアから環境研に来ていただいたという経緯があります。
Q: 三者の枠組みについて、どこがどんな役割で仕事を進めているかお話しください。
横田:これまでJAXAが衛星を打ち上げ、ユーザーがデータを使うという構造だったのですが、宇宙開発委員会からの要請もあって、データの利用機関にもセンサの設計の段階から入り、三者が一緒になってスタートしました。JAXAは人工衛星、センサ、それからデータの一次処理をします。我々はそのデータを頂いて、二酸化炭素(CO2)やメタンの濃度情報にコンピュータで変える。これがプロジェクトの1番目の目的です。さらにその衛星観測データと地上で測ったデータとを併せて、モデル解析担当のマクシュートフさん達のグループがCO2の吸収と排出に関する精度の高い情報を出す。これが2番目の目的ですね。環境省は、サイエンス面での成果を通じて、国際施策の場におけるプレゼンスや日本の温暖化対策に関する姿勢を示すことになる。ところで、このような衛星観測プロジェクトに日本政府の環境省が分担者として入っているというのは、国際的には非常に珍しいことなのです。プロジェクトの発足時点で、京都議定書の第1約束期間である2008年から2012年に合わせた観測を目指しました。実際には当初目標から半年ほど遅れて2009年1月に打ち上がりました。この遅れも、私が経験したプロジェクトの中では非常に短いです。京都議定書の第1約束期間を目指してJAXAも懸命に準備を進めてくださり、当初目標と同一年度内に打ち上がりました。
Q: そうするとセンサの設計とか、どんなスペックじゃないといけないとか、環境研の貢献は大きいと思いますが、実際にどのように貢献されたのでしょうか。
横田:プロジェクトの立ち上げ段階では、センサをまずどのような波長範囲で、どのように測ろうかということをシミュレーションを用いて検討しました。これは住明正先生(東大)を中心とするGOSATプロジェクトの開始に関する検討委員会のワーキンググループ作業として実施したことです。それから、メーカーがセンサの製作に入り、そのデータ確認会や検討会の場に私どもやサイエンスチームの研究者もオブザーバとして参加させていただき、いろんな質問や指摘を出すことができました。センサの開発・製作というのは、コストと時間と性能とのバランスの中で進められますから、ユーザーとして譲歩できる点とどうしても性能を確保してほ しい点について意見を出し、実際に考慮していただいたこともあります。例えば、雲やエアロゾル観測のためのセンサの仕様決定には、サイエンスチームの有識者からの声が生かされました。研究者にとっても事前にセンサの特徴(良い点、不十分な点)について把握できる利点があります。このように、利用側の研究者と開発側のJAXAやセンサ製作者が要所で確認をしながらセンサの製作を実現できたこと、これも非常に良かった点だと思います。
Q:三者のプロジェクトであるという点でご苦労されたことはないですか。
横田:科学者、研究者はセンサの性能は良ければ良いほどいいんです。でも作る側は時間の制約、お金の制約、それから技術力の制約などがあって、最低限の性能が満たされればそこでセンサの製作を完了し、性能試験を打ち切りたいと要望されます。そのあたりで関係者間の調整が大変でしたね。宇宙に行った後では装置の特性はわからなくなるから、いろんな性能試験を実施しておいてほしいと要望したのですが、JAXAや環境省は、打ち上げ期日を守れるかどうかにも主眼があるわけですね。そうすると、試験も必要最小限にして打ち上げようとします。我々の要望を知っているセンサメーカーやJAXAの現場の担当者の方々は、種子島でも試験を続けてくださっていたようです。
日本のオゾン層観測センサILASとILAS-IIでは、太陽を光源として、大気をかすめる方向に観測をしました。これを「太陽掩蔽法(たいようえんぺいほう)」と呼びます。これによってオゾン濃度の高度分布が得られます。一方GOSATでは、「下方視観測方式」により、地球表面で反射された太陽光を測ります。これにより、地表面に近い対流圏にある温室効果ガス濃度に感度があります。ただし、使用する波長帯の関係から、求められるのは「カラム量」(地表面から大気上端までの仮想的な空気の柱(カラム) の中にある分子量)です。
■図1 衛星による大気の観測方式(ILASとGOSAT)の比較
■図2 GOSATプロジェクトを推進する三者の役割
GOSATプロジェクトは、環境省、国立環境研究所、宇宙航空研究開発機構の三者により、それぞれ図に示されるような役割分担をもって相互の協力のもとに推進されています。
