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「自然起源VOCの観測研究」

研究をめぐって

 大気中VOCはローカル〜グローバルスケールの様々な環境問題に関与しています。それらの問題解決、実態解明、将来予測のための研究が世界中で進められています。ここでは、地球環境に関わる植物起源VOCと人為起源ハロカーボンについてその観測研究の動向を簡単に紹介します。

世界では

 植物が大量のVOCを放出している事実がF.W.Went博士やR.A.Rasmussen博士らによって明らかにされた後、個々の植物からのVOCの放出量を調べる研究が始まりました。米国では1980年代から種々の植物によるVOC放出量データが蓄積され、ヨーロッパでも1990年代はじめの大型プロジェクトを契機に、植物起源VOC放出に関する研究が急速に進みました。光や気温が植物からのVOC放出量にどのように影響するかは、A.Guenther博士によって数値モデル化されたものが広く使われています。近年、高感度でリアルタイム測定が可能なプロトン移動反応質量分析計(PTR-MS)が普及し、植物によるVOC類の発生/吸収メカニズム解明やフラックスの測定に大きな進展がみられます。また、衛星によってイソプレンの主要な反応生成物であるホルムアルデヒドを観測することが可能になり、イソプレンのグローバルな発生分布の解析に使われています。今後、イソプレン放出量の経年変化や季節変化を知るための有効なツールになると思われます。将来の環境変化(二酸化炭素の増加、気温の上昇、乾燥化など)が植物からのVOC発生量の増減にどのように影響するかを調べる大規模フィールド実験も始められています。

 一方、陸上植物起源VOCに比べて、観測データの少ない海洋起源VOCに対する理解は遅れています。しかし、2003年にSOLAS(海洋大気間物質相互作用研究計画)がIGBP(地球圏-生物圏国際協同研究計画)のコアプロジェクトの1つとして、立ち上がり、海洋から放出される微量ガスの研究が各国で加速されています。

国内では

 国内では植物起源VOCの大気観測が始まるよりも前に植物の香り成分として生理作用や代謝経路について研究が行われていました。また、神山恵三博士によってテルペン類の殺菌作用や森林浴効果が紹介されました。大気中植物起源VOCの動態に着目した研究は1980年代には国立環境研究所等ごく少数の研究機関で大気中濃度の季節変動や反応生成物などが測定されていましたが、現在では、静岡県立大学、北海道大学、京都大学、大阪大学、首都大学東京、石油産業活性化センター等が、放出メカニズム、大気濃度変動、放出量、反応生成物などに関する研究を幅広く進めています。また、光化学オキシダントのシミュレーションにおいても植物起源VOCの影響が考慮されるようになっています。そのため、わが国に自生する植物からのVOC放出量インベントリーの構築が喫緊の課題になっています。

 海洋起源VOCについては、大気海洋物質循環プロジェクト研究(W-PASS)の一環として、国立環境研究所、日本大学、北海道大学などが海水中の生物起源VOCのフラックス観測を進めています。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では30年以上にわたって自然起源VOCの動態解明研究に取り組んでいます。モノテルペン、イソプレン、塩化メチル、ヨウ化メチル、ブロモホルム、ジメチルスルフィドなど多くの自然起源VOCの系統的な観測によってそれらの分布と変動、発生源、大気中における変質過程などを明らかにしてきました。現在は、東南アジアの熱帯林と西表島において植物起源VOCのフラックス観測、安定同位体比を使った収支見積もりの研究を進めています。また、南北両半球における多地点のVOCモニタリングおよび波照間・落石における大気中自然起源VOCの高頻度観測を継続しています。海洋起源VOCについては、乗船機会のある研究航海中に大気/海水中VOCを自動観測して、海洋からのVOCフラックスのマッピングを進めています。また、自然起源VOCをそれらの発生源である生態系の活性度を知るためのトレーサーとして活用する新しい試みに取り組む予定です。