ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

日本低炭素社会への道しるべを提言

Summary

 世界の温室効果ガス排出量半減に貢献するには、日本は2050年までに二酸化炭素排出量を1990年比で60~80%の削減が必要とされています。これを達成するため、バックキャスティングという手法で、まず、2050年における日本のあるべき社会や経済状況の理想像を描き、実現に向けて国をあげて取り組むべき「12の方策」を提言し、実現に要する総費用の最小化を図る観点からは初期段階で大規模の投資が必要になる、と説いています。

 環境省の地球環境研究総合推進費戦略的研究開発プロジェクトとして、2004年に「脱温暖化2050研究プロジェクト」が発足、5年にわたって日本の中長期脱温暖化対策について総合的に研究し、低炭素社会への道しるべを創り上げてきました。今回はその概要をご紹介します。

バックキャスティング手法で低炭素社会の実現可能性を検討

 低炭素社会のバックキャスティングとは、まず将来どのくらい削減すべきかを考え、その大幅削減を実現した社会の姿を描き、その実現のために今からどのような手を打っていけばよいかを探るものです。

 2050年に日本はどれくらい削減すべきかは、気温上昇許容レベル、気候感度、国際分担スキームという3つの不確実性を考慮して検討を進めました。これは将来がどうなるかを完全に予測することは不可能なので、ある一定の幅を持って考え、リスクを避けるために必要な排出削減量を幅として考えることにしたものです。これらの検討結果を総合的に勘案したところ、2050年の日本の温室効果ガス排出削減必要量は60%から80%に収まると考えるのが妥当と結論づけました。

 この結論をもとに、二酸化炭素を1990年比で70%まで削減することを目標として、これが2050年までに実現可能か、それを可能にするにはどのように政策を打てばよいか、を検討しました。そこでは、既存の文献収集や専門家に対するインタビューなどの情報をもとに、社会断面ごとの望ましい社会群像を組み合わせて、2050年にありうる日本の社会や経済状況の姿をシナリオAとBの2つ示しました。シナリオAは「活力、成長志向」がコンセプトで、シナリオBは「ゆとり、足るを知る」をコンセプトとした社会です。

 シミュレーションモデルを使っての検討により、この2つの社会に至るためには産業構造のサービス化、コンパクトな都市形成による徒歩や自転車利用への移行、公共交通へのモーダルシフト、建築物の断熱効率の向上、省エネ技術の開発、普及などにより、エネルギー需要を2000年比約40%削減し、他方、発電などのエネルギー供給側では、再生可能エネルギーの導入や、安全な原子力発電の維持など、二酸化炭素を直接出さない低炭素エネルギーの拡大により、需要と供給側の対策を合わせて二酸化炭素排出70%削減は可能になると結論づけています。

低炭素社会を実現する12の方策

 次に、70%削減の検討段階で削減効果があるとされた対策を中心に、各分野の研究者により検討された対策と政策、それに有識者の意見を加えて、その導入を促進させるような政策と組み合わせて、相互に関連のある対策や政策をグループ化して、70%削減に向けた12の方策としてまとめました。さらに、方策を実現することによって家庭やオフィス、人や物の移動、産業がどのように低炭素化されるかをそれぞれの場面での例示も試みました。たとえば、家庭やオフィスでは、建物の高断熱化、高効率のエネルギー機器をレンタルする暮らし、露地栽培物など旬のものを食べる生活などを例示。移動における方策では、歩いて暮らせる街づくり、鉄道、船舶など大量輸送手段に関するインフラ整備など、産業分野における方策では、高度情報通信技術を利用したサプライチェーン(ある原料から製品がつくられて消費者のもとに届くまでの流れ)管理でムダな生産・輸送を削減、炭素隔離貯留設備を併設した火力発電、水素・バイオ燃料の利用などをあげています。

 また、削減を促進するという意味で重要な横断的な方策として“見える化”による賢い選択と低炭素社会の担い手づくりがあります。人が移動する時に、時刻表や運賃などとともに、交通機関の温室効果ガス排出量の情報がわかれば、低炭素な交通手段を積極的に選択できるようになります。また、低炭素社会づくりに資する人材を育てる学校教育カリキュラムの採用、低炭素アドバイザー資格制度の設置が有効であると考えています。

低炭素社会実現の費用抑制には初期段階の大規模な投資が必要

 低炭素社会の実現に要する費用をできるだけ抑えるためには、いつ、どのような部門の、どのような技術に投資し、どのような制度や政策を立案、実施するのがよいのでしょうか。12の方策などに基づき約600種におよぶ対策と政策を取り上げ、それぞれに導入に要する期間と、導入に要する費用を、各種の資料、専門家からのヒアリング、市場調査などによって設定し、シミュレーションモデル(バックキャストモデル)により分析しました。

 その結果低炭素社会実現までに要する費用をできるだけ抑制するためには、初期段階で低炭素型技術に大規模な投資を振り向けることが、肝要であることがわかりました。特に民生部門に対しては2010年から2025年まで毎年2.5兆円、運輸部門に対しては2010年から2015年まで毎年2.5兆円の投資が必要と計算しています。ただし、これらの投資は低炭素化と同時に副次的に国際競争力の強化につながるというメリットも付記しています。

早くやれば 後でトク(得)をする

 70%削減実現に要する総費用が最小になるような道筋を考えると、シナリオA・Bのいずれでも初期には年間5兆円程度の追加投資が必要となると見られる。しかし、初期の大幅な技術普及によるコスト低下、効率改善等により、省エネ、対策費用の低減が可能となり、期間全体ではトク(得)になる。また、国際競争力の強化が、エネルギーセキュリティの強化などにも役立つ。

図8
図8 低炭素社会を実現する対策の組み合わせとその効果(シナリオA)
建物の高断熱化や歩いて暮らせる街づくり、省エネ機器の開発・普及などにより、必要なサービス需要を満たしつつエネルギー需要を40%程度削減でき、太陽光・風力発電の普及や原子力・炭素隔離貯留の適切な導入などのエネルギー供給側の低炭素化により、CO2排出量の70%削減は可能。
図9
図9 最初に投資した分は後で取り返せる