研究者に聞く!!

小野雅司/環境健康研究領域総合影響評価研究室長
近年、夏期の猛暑日の増加と共に熱中症患者の発生数が増加しています。今後、地球温暖化が進むと、 極端に暑い日がより多く出現すると予想されており、熱中症患者はますます増えていくと思われます。今回は、温暖化による健康影響の中でも、日本において特に大きな問題になると思われる熱中症を研究してきた小野雅司さんに、研究の手法、成果、熱中症の予防、将来予測などについてお聞きしました。
救急搬送データから見る 熱中症患者の増加
1.感染症の疫学調査から熱中症へ
Q: 熱中症の研究はいつ頃から始められたのでしょうか。
小野: 本格的に始めたのは2000 年過ぎからですが、その前から、熱中症には関心があり、1990 年代の初め頃研究したことがあります。1990年に国立公害研究所が国立環境研究所に改組されました。 公害だけでなく、地球環境問題を含めたもっと広い研究をすることになったわけです。同じ頃に、地球環境 研究総合推進費(環境省)の制度がスタートし、その中心課題の1つに温暖化に関する研究がありました。そこで、感染症とか熱中症の問題を取り上げたのがきっかけです。
私の専門は疫学で、その頃はマラリアやデング熱の研究をしていました(現在は国立感染症研究所が担当しています)。私自身、大学の頃、終戦後沖縄で流行したマラリアの研究をしていた経験もあり、温暖化によって日本でマラリアが再流行するのかを研究をしていました。中国南部のマラリア流行地で、どんな状況でマラリアが起きているか、どのような環境だとマラリアが増えるのかといったデータを集め、マラリアと気象条件との関連を調べていたわけです。
Q: 当時から温暖化による健康への影響を研究されていたということですね。その前はどのような研究をされていたのですか。
小野: 大学院を卒業してこの研究所に来てから一番のメインテーマは、大気汚染による健康影響です。 私が研究を始めた頃には、四日市とか川崎で起きたいわゆる従来型の公害はもうなくなっていました。問題になり始めていたのは自動車です。モータリゼーションが進んで、都市部でどんどん交通量が増える。 幹線道路の周辺に住んでいる人たちの健康に影響が出るのではないかというのが大きな話題になっており、私たちも幹線道路周辺に住んでいる方々を対象にいろいろな健康影響調査をしていました。これが今もずっと続いていて、最近では、環境省が幼児や小学生、成人を対象にした自動車排出ガスによる健康影響調査を全国規模で実施しており(そらプロジェクト http://www.env.go.jp/chemi/sora/index.html)、私もメンバーに加わってお手伝いをしていま す。
Q: そうした中で温暖化に関する研究のウェイトが だんだん高まってきたということでしょうか。
小野: そうですね。研究所の中でもそのあたりをやっている人は少なかったのですが、研究テーマとしては非常に大事なので、どうしても進めなければならない。 ということで、そこに力を割いてきたという感じですね。
増加する熱中症
救急搬送記録から見た、2000年以降の地域別熱中症患者の年次推移です。2003年や2006年のように前年に比べて患者が少ない年もありますが、多くの都市で熱中症患者は増加傾向にあります。6都市合計で見ると2007年が2494名で最も多く、次いで2008年となっています。年次推移には各都市の高温日(たとえば日最高気温が35℃以上の猛暑日)の日数が大きく関係しますが、患者の多発する7月あるいは8月の各都市の日最高気温月平均値が患者発生数のおよその目安となります。ちなみに、東京都について見ると患者の最も少なかった2003年の日最高気温の月平均値は7月が26.0℃(患者数18 名)、8月が 29.5℃(患者数212 名)で期間中いずれも最低でした。
■図1 地域別に見た熱中症患者の年次推移
