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コラム「日本の干潟」

干潟の種類

 干潟は河口域や湾奥に広がる平たんな砂泥地で,川から流れ込む土砂や泥が堆積してできます。内湾や入江など外海の影響が少ない緩やかな海域に多くみられます。自然の干潟は内湾の海岸線前面に発達する前浜干潟,汽水性の湖沼や閉鎖的な砂洲に沿って発達する潟湖干潟,河川の河口部に発達する河口域干潟の3つのタイプに分類できます。

 環境省の第4回自然環境保全基礎調査(1994年)によると,日本の干潟の総面積は51,443ha。タイプ別に面積をみると,前浜干潟が33,048haともっとも多く,河口域干潟15,777ha,潟湖干潟2,853ha,その他の干潟(人工干潟)は271haとなっています。

生物の宝庫

 干潟には川と海から有機物が流れ込み,潮の干満による酸素の供給も手伝って,底泥には有機物やそれを分解するバクテリアが数多く生息しています。プランクトンやカニ,貝はこれらを食べて成長し,さらにこうした底生生物を魚や鳥などが餌にします。また海草類も豊富です。こうして干潟では多種多様な生物が豊かな生態系をつくり上げています。

 江戸前と呼ばれ,寿司やてんぷらのネタとなっている東京湾の魚介類も干潟と密接に関わっています。シャコやクルマエビなどは幼生のある時期を干潟の泥の中で過ごします。またハゼやカレイは干潟を産卵場所にしています。

 また,こうした魚介類を餌とする鳥にとっても干潟は重要な生息地です。中でも国境を越えて移動する渡り鳥にとって干潟は中継地点となっており,国際的な取組みが求められています。そうしたことから1971年には「ラムサール条約(とくに水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)」が締結され,湿地とそこに生息・生育する動植物の保全を進めることになりました。

 日本にはシベリアから東南アジアやオーストラリアなどに渡る鳥が途中で立ち寄るため,釧路湿原をはじめ13の湿地がラムサール条約に登録されています。このうち干潟としては千葉県の谷津干潟と愛知県の藤前干潟が登録湿地となっています。

干潟の利用

 日本人ははるか狩猟時代から干潟を利用してきました。干潟は生き物が豊富なだけでなく,江戸時代の安藤広重の浮世絵にもあるようにだれでも簡単に食料を確保できたからです(下図)。一方,新田開発のための干拓も徐々に行われていました。明治時代に入ると,近代工業の勃興に伴い海岸地域では干拓から埋立てへと進んでいきます。さらに戦後,とくに高度経済成長期といわれる1960年代の後半から干潟は急速に姿を消し,港湾やコンビナート,住宅地,商用地へと変貌していきます。日本最大級の渡り鳥の飛来地でごみ処分場建設が問題となった藤前干潟では,江戸時代から300年かけて干拓された面積と同じ面積の埋立てがわずか戦後30年で行われました。

 産業構造の変化や環境意識の高まりなどによって,かつての急激な干潟の開発は避けられつつあります。しかし消滅の危機にある干潟もあり,その保全の必要性が強く叫ばれています。

江戸時代の干潟の様子(富岳三十六景)