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第2セッション「国際的水環境の修復−バイオ・エコエンジニアリングという技術−」

講演者(稲森悠平)による回答

Q.
 霞ヶ浦でのミクロキスチンのレベルはどれくらいでしょうか? 発表資料によるとかなり高いように見えたのですが、飲料水として人体への影響はないのでしょうか?

A.
 霞ヶ浦でアオコが増殖し、湖心から湖岸に風で吹き寄せられたアオコ集積域では1,000μg・l-1のミクロキスチンが検出された例があります。家畜の放牧されている国では飲用して死んだケースが数多く報告されています。この濃度の水を飲むと人も死亡します。ブラジルでは、54人の死亡事故が起こっています。霞ヶ浦では高度処理型の浄水場がありますので、直接的影響は認められていないのですが、WHO(世界保健機関)のガイドラインの1mg・l-1以下のより微量でミクロキスチンが肝臓ガンの発ガンプロモーターになることも指摘されております。これらの点はこれからの研究調査による解明が必要とされています。


Q.
 NがStrippingすることは理解できますが、Pを系からどのように除外するのかが、(土壌への吸着以外には)よくわかりませんでした。もちろん、水耕栽培によって除去できることは判りますが。

A.
 リンの除去としては、ジルコニウム系の担体の充填された吸着塔で吸着し、アルカリで脱着し、リンを純物質として回収する技術を開発しております。米国ではリン資源は涸渇する資源として輸出禁止を打ち出していますので、このような方策が今後重要になるといえます。


Q.
 土壌中のトレンチのしくみが、よく理解できませんでした。家庭排水と工業用の排水というのは主成分がかなり異なると思いますが、その点はどのように考えますか?

A.
 土の中に箱型のトレンチというものを設置し、砂利を充填し、そこに汚水を流下させ毛細管現象で上昇後、汚水が土壌を流下する過程で土壌生物および土壌の物理化学反応で汚濁物の除去が可能となります。当然、生活系排水以外の工業用排水については土壌生物に対して影響を及ぼさない食品排水等が対象となります。


Q.
 アオコの害は数年前から、荒川流域、都の水資源でも問題となり、その後あまり話題となっていませんが、これについては充分な対策が実施されているのでしょうか? 本日発表となった施策の一部でも実際の採用が行われているのでしょうか? 河川への富栄養化についての対策はかなり徹底してきたようですが、アオコが発生しない限度までの対策は実施されていないように思います。

A.
 アオコの発生防止のためには流域における抜本的な窒素・リン除去対策が必要不可欠です。各種条例の整備等で、窒素・リン対策の強化が重要です。例えば、土浦市では高度処理浄化槽としてN,Pの除去を指導要綱で義務づけ条例化を図りつつあります。このような対応を強化することなくして健全な水環境創造はあり得ません。


Q.
 ミクロキスチンは水に溶け出て、害をなすのですか?

A.
 ミクロキスチンは藍藻類が生産するもので、細胞内に蓄積されていますが、アオコが分解する過程で、細胞内から水中に溶出し、水生動物プランクトンおよび飲用した場合、家畜、人間等に影響を及ぼします。


Q.
 何故、NやPが湖に入って広がった後に処理することばかりを考えるのですか? 元を断つことは考えないのですか?

A.
 当方の研究開発は、バイオエンジニアリング(生物処理工学)としての高度処理浄化槽等による発生源対策とエコエンジニアリング(生態工学)としての水生植物、土壌等による浄化技術の開発を行っております。原則として希釈放流前の発生源対策が重要な基本でありますが、それでも生活雑排水の未処理放流等もありますので、そのような低濃度汚水対策として直接浄化対策が必要となります。


Q.
 生活排水処理に関して、各家庭に処理施設を義務付けるのと、公共機関による処理施設にたよる方法とを比較した場合、社会的コストまたは汚水処理の面から考えて、どちらが有効でしょうか?

A.
 生活排水処理対策として当然下水道との公平性を考慮すると浄化槽も下水道も公的に対応図ることが重要です。小規模浄化槽でも個人負担10%という特定地域を対象とした生活排水対策事業が推進されてきていますので、このような形で高度処理浄化槽の普及整備を図る必要があります。戸別家庭への処理施設の義務づけは必要としても公的運用のあり方が今後の重要な課題であるといえます。


Q.
 環境教育などを通じて、上流での排出削減が大切なことは理解できますが、一方、最近のマンション建設ラッシュをみると、ディスポーザの設置などがよく見られます。一定の処理がなされて排出されているとは考えられますが、生ごみを分別して廃棄するのに比べると、下水などへの負荷が低くなるとは考えにくいように思います。かりにバイオエコエンジニアリングが確立された場合、各集合住宅や集落で処理できるようなコンパクトな設備をローコストで設置することは可能でしょうか?

A.
 ディスポーザを活用する場合、下水道への負荷を高めない、浄化槽と接続するケースでは、BOD10mg・l-1以下、T-N10mg・l-1以下、T-P1mg・l-1以下の高度処理型とすることという基準ができて、これで運用されています。このような点を鑑みたロ−コスト、コンパクトなシステム確立のための技術開発を現在行っています。


Q.
 中国を含む東南アジア諸国の水質汚染問題は、(1)大都市への過度の人口集中による都市型汚染と、(2)農山村地域の汚染の2種類があると考えられます。発表の内容は(2)、後者への対応と考えられますが、(1)の方への対応の現状はどうなのでしょうか? 日本のような都市型下水道を建設するのが適当と考えますか? (2)の農村排水への対応の場合、発表にはなかった畜ふんの負荷量が非常に大きいと思われますが、これはどのように扱うのでしょうか? また、肥料としてのリンの流出や農薬などの汚染物質の処理をどうしたらよいと考えますか?

A.
 開発途上国の水質汚染問題は、大都市部については、対策は我国とほとんど同じと考えられます。すなわち、下水道あるいは中規模浄化槽で高度処理型の整備が必要と思われます。各家庭用の浄化システムは現在では困難ではないかと考えられます。畜舎糞尿等については当方で研究を行っていますが、メタン発酵と処理残渣の炭化処理技術の組み合わせが有効と考えています。肥料、農薬等につきましては当たり前のことですが、適正使用が必須でありますと同時に、畑地等の後に植生・土壌浄化等のエコエンジニアリングの適正整備による浄化緩衝帯を構築することが重要と考えています。


Q.
 現在発生しているアオコ撲滅の対策は現在各国で推進されているのでしょうか? また日本での具体的技術はどんな形で実施されているのですか? また、逆に、アオコからの窒素・リン回収技術は可能なのでしょうか?

A.
 アオコ対策の基本は、アオコの増殖制限因子の窒素、リンを効果的に除去することにあります。我国では対策が進められていますが、緒についたところです。窒素、リン除去型の下水道、高度合併処理浄化槽、農業集落排水処理施設、産業排水処理施設があります。このようなバイオエンジニアリングと同時に植栽・土壌浄化法等のエコエンジニアリングも活用されています。これらの技術の普及には、行政の強いサポートが必要不可欠なことはいうまでもありません。アオコからの窒素・リンの回収は、対処療法的な対応として技術的には可能ですが、対費用効果の観点で問題があるものと考えられます。そもそもアオコの増えない環境創りが必須であり、発生源対策の強化が必要不可欠です。アオコから、窒素、リンを回収するとすればメタン発酵させて残渣はコンポスト残液から吸着方等で回収することにより可能です。


Q.
 技術移転にともなう課程を技術的な側面と社会的な側面から教えてください。

A.
 開発途上国への技術移転を図る場合、温度条件により処理速度が違いますので、微生物の反応速度を考慮した技術開発が必要です。また、社会的には作りすぎない、捨てない、流さないの台所対策の環境教育の啓発、国の汚水処理システムの構造・管理基準づくりの整備、貧富の差の厳しいことを考慮した段階的技術導入、インフラ整備の強化などが挙げられると思います。


Q.
 環境教育の実践についてもう少しくわしく教えてください。小中学生に環境問題を実感させることは大切なことだとは思います。しかし、難しいことでもあります。成果などを聞かせてください。

A.
 環境教育として最も重要なこととして、平成2年度の水質汚濁防止法の改正で位置づけられた国民の責務としての台所対策があげられます。台所対策とは、作りすぎない、捨てない、流さないの実践がコアですが、これにより生活雑排水の環境への汚濁負荷を約1/2に低減できるるという結果が得られています。水はどこから来てどこに流れて行くのか、自分の排泄した汚物が自分の家庭から水域にどう流れていくのか、何故浄化が必要なのか、小さい時から意識できるように教え込むことが大事といえます。土浦港近くのビオパークでは、水耕栽培浄化というシステムにより食べられる植物を栽培することができます。これを収穫し、あわせて浄化の流れを子供達に見学してもらうことにより環境保全の実践教育を行っています。また、家庭に取り付けてある浄化槽は、実は最も環境教育の実践現場であるといえます。自分の排泄した糞尿がどのように処理され放流されているか、また管理が不適切だと糞尿が流れ出すなど理解できる現場であり、市民参画型の浄化槽ネットワーク創りも極めて重要と考えております。


Q.
 生物多様性の視点から、移入種問題(ホテイアオイやグッピーなどの利用)についてはどのように考えていますか? それぞれの土地・地方にあった、できれば在来種の利用が好ましいと思いますが・・・。 ビオパークについても、安易な移入植物の利用は問題とならないでしょうか? 子どもたちに在来種の価値を(生物多様性の意味)きちんと理解させる必要があるのではないでしょうか?

A.
 生物多様性において危機対応の中に移入種問題がありますが、在来種を活用することが当然と思っております。ビオパークでは、日本在来のものを活用するように心がけております。また、この施設システム以外では繁殖して生態系システムに影響を及ぼさないようにということも念頭においた対応を図っております。


Q.
 ある質問者の方への回答で、環境教育の一例として神奈川県のある町で台所対策をやり、一方のまったくやらなかったところと比較したところ、P及びNの量がかなり違ってきた旨の答えがありました。この具体的なデータがあれば、教えてください。

A.
 台所対策の実践の有無による負荷削減効果につきましてのデータですが、台所対策として天ぷら油、マヨネーズ等の付着した鍋、皿、等は、拭く、三角コーナーで分離する、米のどぎ汁は植木、畑等にまく等を実行した場合、しない場合に比べて1/2の削減効果が得られています。人の一日に使用する水量はトイレの水洗便所(し尿)で50l/人・日、台所・洗濯等の排水(生活雑排水)で、150l/人・日、BOD負荷量はし尿13g/人・日、生活雑排水27g/人・日、窒素負荷量はし尿8g/人・日、生活雑排水2g/人・日、リン負荷量はし尿0.6〜0.7g/人・日、生活雑排水で0.3〜0.4g/人・日ですが、この中の生活雑排水が台所対策等の対象となっています。全生活雑排水の中の負荷量の70%近くを台所排水が占めておりますので、台所対策の効果は極めて大きいことであるといえます。


Q.
 「生活排水→水耕栽培→食う」というフローでは、寄生虫などの衛生問題はクリアされていますか? 東京湾は生活排水や工場排水が多いかもしれませんが、中国では農地排水による富栄養化が問題なのではないでしょうか?

A.
 ビオパークの水耕栽培浄化法においては、いろんな活用の仕方があります。一つは、汚濁湖沼水を原水とする場合、一つは、生活排水の浄化槽等の処理水を原水とする場合ですが、いずれも水耕栽培浄化システムに出現する細菌類の捕食者のワムシ、ミジンコ、水生ミミズ、ツリガネムシ、ゾウリムシ等の働きで、病原微生物は捕食効果等で除去されることが明らかとなっております。なお、生活排水そのものを処理する場合も考えられますが、流入負荷条件、植物の植栽順位等の配置の仕方で、影響のない高度浄化が可能となります。これについては更なる解析・評価の研究は実施しているところです。農地排水についての対策は、浄化槽等の点源負荷(ポイントソース)に対し、面源負荷(ノンポイントソース)といわれております。つまり、一般的には、適正な施肥を行うなどの対応が対策のメインになります。しかし、このような農地排水が河川、湖沼、内海・内湾等に流下する手前に緩衝帯としての植栽・土壌浄化システム等を整備することによって施肥の適正化とあわせた複合的な期待できます。このようなバイオ・エコエンジニアリングのベストミックス化を念頭においた技術の開発を更に実施していくことで健全な環境創造に貢献していくこととします。


Q.
 窒素・リンの問題の根本は食料の自給率(=40%)にあり、60%の輸入食料とともに入ってくる肥料成分・栄養成分が日本中にあふれていることが問題だと思います。食料の輸入と共に肥料成分を食料輸出国へ戻すシステムを研究することが必要だと考えますが、いかがでしょう?

A.
 我国は飼料、肥料等の窒素・リン資源を海外に大きく依存しているということは認識されており、その対応として回収資源循環を強化した取り組みが重要であると中央環境審議会の委員会も指摘をしています。また、輸入された各種の資源は適正に利用されず約1/2が捨てられているという実態もあり、飽食の時代を見直すことが重要といえます。また、食料輸入と肥料輸出も一つのアイデアと思われます。肥料を輸出すると考えた場合、食糧等を経た最終産物の汚泥、生ごみ等をコンポスト変換するなどした有機肥料を国外で活用するということは重要と思われます。
 
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