ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2012年11月29日

京都議定書第2約束期間の設定について何が問題になっているのか?

 昨日(28日)ようやく、COP18及びCMP8、並びに、5つの補助機関会合(SBSTA37、SBI37、AWG-KP17-2、AWG-LCA15-2、ADP1-2)の開会全体会合が終わりました。

 皆さんが目にする機会があるのは、大きな会議場で開催される全体会合の様子だと思いますが、ずっと200か国近くの締約国が集まるひとつの会議で話し合っているわけではありません。開会全体会合の後、議論の場は、議題ごとに設置される事務レベルの少人数による会合(「コンタクト・グループ」と呼ばれます。参加者の数は、議題によって異なりますが、数十人程度であることが多いです。開会全体会合の場で設置が決定されます)や非公式協議に移り、議題ごとに、決定案(COP/CMP)/結論案(補助機関会合)を作っていきます。会期終盤に入ると、再び、それぞれの会議の全体会合が開かれ、決定案/結論案を採択することになります。

写真1
写真1:会議参加者が利用するバスの外観。「排出削減目標を強化する」と書かれています。バスの外装には、いくつか種類がありますが、いずれも、COP18/CMP8のロゴと、気候変動対策を促進するスローガンとが書かれています。

 さて、今日(29日)は、京都議定書第2約束期間の設定に関して、何が問題になっているのかを解説したいと思います。

 昨年のCMP7において、2013年1月1日から、京都議定書第2約束期間を開始することが決まりました。2013年1月1日まで残すところ1か月を切りましたが、今回、ドーハで、何を決めておかなければならないのでしょうか?

 京都議定書第2約束期間について残されている課題は、以下の3つです。

①京都議定書附属書B及び関連規定の改正案の採択と法的継続性の問題

 京都議定書第1約束期間(2008年~2012年)に、どの先進国が1990年の排出量と比べてどれくらいの排出削減目標を約束しているかは、京都議定書附属書Bに書かれています。第2約束期間を設定するには、この附属書Bの改正が必要です。この改正は、CMPで合意・採択されるだけで効力を持つわけではありません。改正案が採択された後、締約国の4分の3が批准してから、90日目に、この改正を受け入れた締約国について発効することになっています。

 今回、京都議定書の改正案に合意ができたとしても、2013年1月1日までに発効することはありません。各国の批准にも時間がかかりますし、2013年1月まで90日もないからです。したがって、発効までの間の空白期間を法的にどう埋めるかという問題があります。

 また、京都議定書第2約束期間の数値目標についての議論がなされています。EUのほか、オーストラリア、カザフスタン、モナコが第2約束期間への参加を表明しています。途上国は、先進国が率先して排出削減を実施すべきであると主張し、第2約束期間への不参加を表明している国に対しては参加を、第2約束期間への参加を表明している国に対しては目標の引き上げを求めています。

 そして、第2約束期間を2013年1月1日からいつまでにするかを決めないと、第2約束期間の設定はできません。昨年のダーバン会合で、第2約束期間の長さについては、5年か8年にするという決定がなされました。EUが8年を主張し、多くの途上国は5年を主張しています。途上国は、IPCC第5次評価報告書(2013-2014年に公表予定)の最新の情報を踏まえて、各国が掲げている排出削減目標が、気候変動の悪影響がひどくならないようにするのに十分かを見直しすべきと考えており、第2約束期間が8年間になってしまうと、その見直しの機会を逃してしまうと考えているようです。

②キャリーオーバー(京都議定書第1約束期間の余剰排出枠の繰越)をどの程度認めるか

 第1約束期間に京都議定書において設定された削減目標を上回って削減した場合、その余剰分を、どれくらい、第2約束期間に繰り越すことを許すかという問題です。つまり、ある国が第1約束期間に-5%の義務を持っていて、実際には-8%を達成できた場合、その差3%分の排出枠を第2約束期間に全部持ちこせるのか、あるいは、一部のみしか認めないかということです。特に、ホットエア(経済活動の低迷などによりCO2の排出量が大幅に減少していて、特段の対策を講じなくても、相当の余裕をもって、京都議定書第1約束期間の削減目標が達成されることが見込まれる国々(ロシアや東欧諸国)の余剰排出枠を意味します)について、この繰越を認めるかが問題となっています。

③第2 約束期間に数値目標を持たない締約国が京都メカニズムを利用できるか

 第2約束期間に参加しない京都議定書締約国が、引き続き、クリーン開発メカニズム(CDM)などの京都メカニズム(CDM、共同実施(JI)、排出枠取引)を利用できるかという問題です。

 京都議定書では、世界全体での費用効率的な温室効果ガスの削減を実現するため、先進国内における削減を中心としながらも、その補完的にという制約つきで、先進国が京都メカニズムを利用することを認めています。京都メカニズムのひとつ、CDMとは、先進国の技術や支援により、発展途上国の温室効果ガスの排出削減と持続可能な発展に資する事業を実施し、その事業によって生じる排出削減量の全部または一部を先進国がクレジットとして獲得し、先進国が削減目標の達成に利用することができる制度です。CDMについては、制度運用上の様々な問題点も指摘されてきていますが、先進国は、排出削減目標の達成に使用することができるクレジットを得られ、発展途上国は、技術と資金を得られるという両者にとってメリットを提供しようとする制度となっています。2012年11月1日までに、4,917件のCDMプロジェクトが国連に登録され、約10億3,630万トンのCDMクレジットが発行されています。

 日本は、第2約束期間に参加しないことを表明していますが、日本国内の目標達成のために、引き続き、京都メカニズムの利用を希望しています。他方、途上国は、「京都メカニズムは、排出削減目標達成を支援するためのものであるから、目標を持たない国の利用を認めるべきではない」としています。

 仮に、現行ルールのままで第2約束期間に入るとすると、CDMについては、第2約束期間不参加国とその国内の認可された法主体は、目標達成のためにCDMクレジットを利用することができなくなります。第1約束期間中に始まったプロジェクトや第1約束期間中に発行されたクレジットも同じ扱いになります。第1約束期間の削減約束不遵守とならないように、各国は追加期間中に、クレジットを取引できることになっていますが、現行のルールのままでは、これができなくなります。

 この第2約束期間不参加国の京都メカニズム参加資格をどうするかについては、今回、大きな論点のひとつになっています。つまり、日本にとっても、ドーハ会合は重要な会合なのです。

写真2
写真2:COP18/CMP8のスローガンのひとつ、「70億人による1つの挑戦」のポスター。

執筆:久保田 泉
(国立環境研究所 社会環境システム研究センター)

※全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)ウェブサイトより転載