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 温暖化によって、人間社会はどのような影響を受けるのでしょうか?農業、水資源、健康、生活インフラへの影響と、海面上昇にともなう災害と経済的な損失を考えてみましょう。

農作物の収量は変わるのでしょうか

米の収量の変化
米の収量の変化
小麦の収量の変化
小麦の収量の変化

 温暖化をもたらす大きな要因は大気中の二酸化炭素などの増加です。これは、植物にとって光合成を活発にし、生長を促すという効果もあります。たとえば、2~3℃ぐらいの気温上昇では、中緯度地域での農作物の収量(単位面積当たりの生産量)は増え、それ以上の気温上昇では減ると予測されています。温暖化の初期には、シベリアやカナダなどでは、穀物が栽培できる地域が拡大するでしょう。

 しかし、熱帯域は現在でも高温下にあり、イネなどに高温障害が出るぎりぎりの気温下で栽培されていることがあります。気温が上がると、高温障害や水不足により、生産量が減少するおそれがあります。

 日本では、米の生産地が北へシフトします。しかし、品種を変えたり、耕作時期をずらすことで、米の収量はわずかな減少で止められるでしょう。小麦の生産量への影響はどうでしょうか。アメリカなどの主要な産地では収穫量が大幅に減少しますが、涼しい季節に栽培期間をずらしたり、高温に強い品種を使うことによって、収穫量を確保することができると予測されています。

 果樹への影響も報告されています。リンゴや桃などの果樹は、温暖化にともなって品質が落ちたりしています。温暖化がさらに進むと、品質の劣化がさらに進む一方、栽培の適地が北へシフトすると予測されます。たとえば、リンゴの主産地が北海道になるかもしれません。

 農作物の収量が減少すると、貿易を通じた食料供給が滞り、市場価格が上昇します。そうなると、食料を買えない途上国は食料不足に陥り、最悪の場合には飢饉が発生するのではないかと危惧されています。

 日本の食料自給率はカロリーベースでわずか40%程度です。食料輸出国での収穫量が減れば、国際市場を通して食料不足が発生する可能性があります。日本だけではなく、とくにアジアでは一部の国で食料の自給率が下がっています。今後は、温暖化の影響も念頭においた食料安全保障が重要な課題となるでしょう。

乾燥化による水不足と洪水の増加

河川流量の変化
河川流量の変化

 温暖化は、降水の量や地域的な降水パターンを変化させます。温暖化が進むと、中央アジア、地中海沿岸、南アフリカ、オーストラリアでは降水量が減少し、乾燥化が進みます。その結果、深刻な水不足がおこるでしょう。

 水不足に悩む人々は、現在でも世界中で17億人にもなります。2025年には50億人に達すると予測されています。途上国では、水不足によって経済発展が阻害される可能性も大きいでしょう。水資源の問題については、2002年のヨハネスブルクサミットでも懸案事項の1つとして大きく取り上げられました。

 一方、中緯度地域や東南アジアでは、降水量が増加すると予測されます。世界の河川流量の変化を予測した左の図でもそれがわかります。とくにダムや貯水設備の貧弱な東南アジア諸国では、洪水による被害が心配されています。

 また、温暖化すると冬季の雪が雨に変わり、これまでは春の雪解け時に流出していた河川流量のピークが冬にシフトします。事実、アメリカではこうした流量ピークのシフトが観測されています。

 日本では、積雪の減少が予測されています。北陸、東北、北海道などの豪雪地帯が減少すると、水資源や自然生態系に影響が現れるのではないかと懸念されています。

海面が上昇するとどんな影響が出てきますか

沿岸洪水による被害リスク人口
沿岸洪水による被害リスク人口
都道府県別海面上昇による海岸浸食面積の割合
都道府県別海面上昇による海岸浸食面積の割合

 温暖化が進むと、海水温の上昇にともなって海水が膨張します。また、山岳の氷河が融けだして海に流入するため、海水面が上昇します。この100年間で、世界で平均して17cm海面が上昇したことが観測されているのです。

 とくに小さな島々からなる国や沿岸の低地では、土地が減少するなどの影響が現れるでしょう。サンゴ礁や環礁からなる島国は標高が低く(たとえば、モルジブのマレでは1~2m)、わずかな海面上昇でも被害を受けます。また、バングラデシュや東南アジアの沿岸低地では、海面上昇にサイクロンや台風による高潮が重なると深刻な被害に見舞われるおそれがあります。

 先進国・途上国を問わず、沿岸低地は急速に都市化が進んでいます。人口増によって、台風・サイクロンなどの被害者の数も多くなっています。2080年までに約40cm海水面が上昇するという条件を用いた予測によれば、沿岸洪水による被害リスク人口は、数倍(適応策により異なるが7500万人~2億人)増加すると予測されています。

 日本の海岸ではどのような影響が出るでしょうか。海面が1m上昇すると、自然の砂浜の約90%が消失してしまいます。海面上昇に高潮が加わると、浸水被害も増えてきます。

人間の健康への影響は?

温暖化の健康への影響
温暖化の健康への影響
日最高気温と熱中症患者搬送数
日最高気温と熱中症患者搬送数
マラリアの潜在的繁殖地域が南北に拡大
マラリアの潜在的繁殖地域が南北に拡大

 私たち人間の健康への影響が心配です。その影響には直接的なものと間接的なものがあります。直接的な影響としては、1日の最高気温が30℃を超える暑い日(真夏日)が続くような熱波の発生によって、熱中症患者が増加します。たとえば東京では、日最高気温が30℃以上になると熱中症患者が発生し、35℃を超えると急に増加することが、救急車の搬送数からわかります。

 間接的な影響としては、マラリアやデング熱などの感染症が北上し、西南日本も潜在的な感染地域に入る可能性があります。マラリアやデング熱は、マラリア原虫などの病原体、媒介する蚊、人が適度な密度でいる環境で発生します。衛生状態の良い日本では、このような環境になったとしても、すぐには発生しないかもしれません。しかし、1999年にアメリカのニューヨークで発生した西ナイルウイルスは、2002年にはアメリカ全土に拡大し、死者も多く出ました。こうした感染症の拡大は温暖化だけが原因ではありませんが、突然発生する危険性があることがわかります。

市民生活にも影響が出るのでしょうか

異常気象による被害額と保険支払額の推移
異常気象による被害額と保険支払額の推移

 都市のインフラ施設や、人々の生活、活動には幾重にも安全装置がほどこされています。そのため、市民生活への影響については、定量的な研究がほとんどなされていないのが現状です。  しかし、温暖化は確かに進んでいますから、市民生活への影響も大きくなることは間違いありません。都市では、ヒートアイランド現象が重なり、エアコンの使用によるエネルギー需要の増加が予測されます。また、海面上昇と連動した台風や高潮などによる経済損失は膨大なものになるはずです。その被害を防ぐためには、多額の費用がかかるでしょう。  温暖化が経済に及ぼす影響を考えるとき、近年急増している異常気象による被害額が目安になるかもしれません。1950年代の年間39億ドル(米ドル1999年値)から1990年代には年間400億ドルへと、約10倍に増えています。被害額の増加はそれを補償してきた保険業界にも大きな影響を与えます。被害額が過剰に増えると、保険業界は対応ができなくなり、民間企業中心で構築してきた保険システムが機能しなくなるおそれも出てくるのです。