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2019年2月18日

ヨーロッパの最新大気チャンバー訪問
~次世代大気化学研究のための大型施設検討に向けて~

NIESでは、次世代の社会と研究ニーズに合致した研究施設の更新についての議論が活発になってきています。具体的には、(1)老朽化施設の更新と機能性の向上に向けたキャンパスマスタープランの策定、(2)将来の研究ニーズに合わせた大型研究施設の整理・更新・新設に関する検討、および(3)温室効果ガス排出の大幅な削減を目指したパリ協定への事業所としての対応などの議論が始まっています。

地域環境研究センターには、大型研究施設のひとつとして大気チャンバーがあります。大気チャンバーは大気中で起こる化学過程を実験室で再現し、そのメカニズムを解明するための実験施設です。日本や東アジアでは、PM2.5の生成過程とその健康影響に関する大気チャンバーの研究が最近の主流でしたが、世界ではヨーロッパを中心に、より精緻な気候変動の理解を目指した大気チャンバーの研究が活発化しています。大気チャンバーを用いて、地球規模で植物から大気中へ排出される揮発性有機化合物が新粒子生成へ及ぼす効果やエアロゾルと雲との相互作用など、これまでの気候モデリングで未考慮のプロセスが明らかになりつつあります。

大気チャンバーを用いた雲とエアロゾルの相互作用に関する研究はまだ発展途上であり、今後も中長期にわたり、研究ニーズが継続することが予想されます。今後も気候変動から地域規模の大気汚染の問題までを幅広く研究できる体制が必要です。大気チャンバーの更新あるいは新設をするとしたらどのような提案が良いか、地球環境研究センターの谷本浩志室長・池田恒平研究員・ 秋元肇客員研究員、環境計測研究センターの猪俣敏室長・江波進一主任研究員、地域環境研究センターの佐藤圭で議論を開始しました。その一環として、平成 31 年 2 月 7 日〜13 日にヨーロッパにある二つの大学を訪問してエアロゾルと雲の相互作用を研究している研究室を訪問し情報交換を行いました。

一つ目に、ドイツカールスルーエ工科大学のOttmar Möhler教授の研究室を訪ねました。Möhler教授の研究室では、エアロゾルからの氷晶形成を、AIDA(Aerosol Interaction and Dynamics in the Atmosphere)チャンバーを用いて研究しています。体積が 80 立方メートルもあるアルミニウム製の巨大なチャンバーで、成層圏を再現するため、温度は -90°C の低温にまで下げることができます。現在建設中の AIDA2 や、構想中の AIDA3 についても詳しくお話をうかがうことができました。NIES側からも最新のチャンバー実験の結果についてセミナーを行い、意見交換を行いました。

KIT-GroupPhoto1

写真1: AIDAチャンバーと(左から)猪俣室長、佐藤、秋元客員研究員、Möhler教授、谷本室長

次に、フランスパリ東大学クレテイユ校のJean F. Doussin教授の研究室に訪問しました。Doussin教授は、エアロゾルからの雲形成と雲粒中におけるエアロゾルの化学プロセスを、CESAM(Chambre Expérimentale de Simulation Atmosphérique Multiphasique)チャンバーを用いて研究しています。こちはら4立方メートルのステンレス製のチャンバーで、教授によると現在世界で健在なステンレスチャンバーはCESAMチャンバーとNIESチャンバーだけだそうです。雲形成のシミュレーション実験の詳細な方法や代表的な研究結果など、丁寧かつ熱心に説明して下さいました。CESAMチャンバーの規模は現在のNIESチャンバーに良く似ており、大変参考になりました。また、見学の後にNIESの研究紹介と意見交換も行いました。現在の研究に関しても有益なコメントをいただきました。

Group Picture in front of CESAM

写真2: CESAMチャンバーと(左から)猪俣室長、佐藤、Doussin教授、秋元客員研究員、谷本室長

ヨーロッパでは、Eurochamp 2020 という大気チャンバー研究のネットワークが立ち上がってお り、技術情報の共有、チャンバー特性評価法の標準化、実験データのデータベース化、および解析ソフトウエアの共有などを進めています。今回訪問したドイツとフランスの研究室も Eurochamp 2020 で中心的な役割を果たしています。ヨーロッパ以外の研究室の参加も歓迎しており、NIESも応募するよう誘いを受けるなど、研究協力の機会に関する情報も提供していただきました。

二つの研究室とも、これまでに協力関係はなかったにも関わらず、貴重な時間を割いて親切に対応して下さり、非常に感激いたしました。雲エアロゾルチャンバーに関して、最新の有益な情報が得られましたので、今後のNIESでの大気研究の議論に役立てたいと考えています。

(広域大気環境研究室 佐藤 圭)