本文へスキップ

2月

湿原生態系の過去と未来 -第3次、第4次尾瀬総合学術調査から-

野原 精一(生態系機能評価研究室) 

これまで気候変動の湿原への影響について必ずしも十分に研究されていない。そこで気候変動の湿原への影響を探るため「平成23年7月新潟・福島豪雨」を例に尾瀬ヶ原における洪水の影響評価を行った。この研究は第四次尾瀬総合学術調査(2017~2019年)として実施した。尾瀬ヶ原は、本州中央部の多雪地域に位置し、日本最大の泥炭の湿原で約8,000年前から河川の堆積物の上にコケや植物が生育し、枯れた植物が長年堆積して泥炭湿原が形成されている。湿原の中には、約1,800個の池溏と呼ばれる池が散在し多様な水環境がみられる。小流域図・湿原地形の詳細な地図を作製し、気候水文と関連する池溏水位、泥炭地の地下水位の変動を明らかにした。大洪水における河川由来の粘土鉱物の堆積物について特徴を把握し、降雨流出モデルのため河川流路、自然堤防、池溏地形、融雪期積雪深等のデータを収集した。UAVを活用して、0.1m間隔の詳細な3Dモデルを構築した。微地形と河川水位・泥炭地地下水位、植生変化予測や池溏の変遷を明らかにした。さらに、洪水区、非洪水区の上田代の池溏40ヶ所を選び池溏生態系の環境観測、生物相調査を行い、洪水による湿原生態系の変化を明らかにした

研究テーマの変遷 -問題意識と好奇心と外部要因-

竹中 明夫(生物多様性評価・予測研究室)

大学院で植物生態学の研究を始めてからこれまでに、雑木林の遷移メカニズム、希少植物の保全生態、植物のマクロな構造と機能の評価、個体ベースモデルによる森林動態の解析、生物多様性の空間パターンの解析などさまざまなテーマに関わってきた。そのあいだに、研究すること自体のモチベーションもまた変化してきた。テーマの変遷やモチベーションの変化の背景には、自分の意識と外的要因とのさまざま相互作用があった。外的要因は、属する組織や置かれた立場による部分も大きいが、時には誰かの一言や、たまたま読んだ文章に大きく影響されたこともあったし、小さな発見からの展開もあった。その経緯を振り返る。

3月

黒潮流域におけるハナヤサイサンゴ属2種の分布および物理環境特性との比較

北野 裕子 (センター長室)

ホソエダハナヤサイ(Pocillopora acuta)は長年、ハナヤサイサンゴ(P. damicornis)の新参異名とされていたが、分子系統解析によって両種は遺伝的に独立した種であると近年報告された。しかしながら、両者を区別できる形態的な差異はほとんどなく、野外での種判別は現時点では不可能に近い。
黒潮流域において、ハナヤサイサンゴとして扱われてきた種の中にどのくらいホソエダハナヤサイが含まれているのか、本研究でミトコンドリアDNA多型を用いて種判別を行なったところ、温帯域にはハナヤサイサンゴのみが生息している一方で、亜熱帯域においてはホソエダハナヤサイがかなりの割合で存在していることが明らかとなった。さらに、両種の分布の違いと環境要因とを比較したところ、ハナヤサイサンゴの分布は水温の差異が少ない地点間においては濁度およびクロロフィルa濃度と関連していることが示された。この結果は将来の分布域の変動を予測するにあたり、水温のみならず、他の環境要因や種間関係についても考慮すべきであることを示唆する。