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4月

大型類人猿ボノボの生息地利用: 遊動・採食・寝床利用における植生選択

寺田 佐恵子(生物多様性評価・予測研究室)

熱帯林の減少・劣化が続く中、熱帯林に生息する大型類人猿の生息地選択を明らかにすることは、効果的な保全戦略を検討する上で重要である。本研究では、大型類人猿の中でも特に情報が少ないボノボ(Pan paniscus)を対象とし、ボノボが遊動域内の複数の植生タイプをどのように利用しているかを明らかにした。対象はコンゴ民主共和国ワンバの1群とし、群れ追跡により、遊動・採食・夜間の寝床の場所と採食品目を記録した。植生は、原生林、二次林(農地含む)、湿地林に区分した。
結果、年合計では、遊動・採食・寝床利用の全てにおいて、遊動域内の面積割合に比して高頻度で原生林を、低頻度で二次林及び湿地林を利用した。一方、原生林で果実が少ない月には二次林での採食頻度が高く、主に草本を食した。また、湿地林で好物の果実が豊富になる特定の月のみ、原生林以上の頻度で、湿地林で遊動・採食・寝床利用を行った。採食物は湿地林にのみ生育する樹種の果実や草本などであった。以上より、ボノボは原生林を選択的に利用すると同時に、二次林は果実欠乏期の代替資源の提供場所となりうること、湿地林は季節的には原生林同様にメインの生息地となりうることが示唆された。

鳥類の多様な生態系機能

吉川 徹朗 (生物多様性評価・予測研究室)

陸域・水域の生態系において鳥類はさまざまな生態系機能・生態系サービスを担っている。とりわけ植物との相互作用では種子の散布者、花粉の媒介者としての機能を担い、これらは植物群集の維持に不可欠である。また鳥類は植物に限らない多様な生物の移動分散にも深く関わっている。だが一方で種子や花の捕食者にもなり、その働きは正と負の両面を持っている。鳥類の多様な機能のあり方について、またこれらを評価して保全する方策について、これまで行ってきた研究を中心に紹介したい。

5月

DNAメタバーコーディングを用いた水鳥の食性解析:手法確立から保全の現場まで

安藤 温子(環境ゲノム科学研究推進室)

DNAメタバーコーディングを用いた食性解析は、糞や胃内容物から大量のDNA塩基配列を解読し、データベースと照合することで、野生動物の食性を非侵襲的かつ詳細に把握できる手法として、生態学における多様な分野で注目されている。その一方で、手法の精度に関しては解決すべき課題も存在する。今回の発表では、植食性の水鳥を対象とし、手法の精度検証、保全上の問題の解決、さらには同所的に採食する水鳥の共存システムに関する研究の発展性について紹介する。
手法の精度に関して、外部環境から糞に混入する植物DNAを検出することで、混入の起きやすい環境を把握し、適切なサンプリングとデータ処理の方法について検討した。また、本手法を活用し、霞ヶ浦の蓮田における水鳥によるレンコン食害の実態解明を行い、収穫前の蓮田でのレンコン採食の可能性が低いことを示した。同時に、水鳥7種の食物構成が異なっており、農地という比較的単純な植生環境においても種間の棲み分けが生じていることが示唆されたため、今後の展開について検討している。

Measuring ecosystem values and climate change: Applications of digital technologies

久保 雄広(生物多様性保全計画研究室)

地盤沈下とその後の護岸工事がアラメ海中林に与えた影響

鈴木 はるか(センター長室)

コンブ目褐藻群落が優占する群落は海中林とよばれ、種多様性と生産力が高い生態系の1つである。大型多年生のコンブ目褐藻アラメ Eisenia bicyclis は、東北太平洋沿岸の潮下帯岩礁域における海中林形成種である。2011年の東北太平洋沖地震により東北太平洋沿岸では津波と地盤沈下が生じた。津波はアラメの破損や死亡をもたらしたことが報告されているが、地盤沈下が潮下帯生物群集に与えた影響は調べられていない。さらに、地震以降、沿岸域の改修工事や高い堤防の建設が急速に進められた。したがって、地震と護岸工事という2つの攪乱を受けているにもかかわらず、アラメ海中林への影響は評価されていない。
そこで、本研究では2011年7月に0.9 m の地盤沈下が生じた宮城県石巻市狐崎浜沿岸に永久調査区(幅 4 m、長さ 30 m)を設定し、個体識別による詳細なモニタリングを行った。2014年7月からは沿岸域に沿って堤防の改修工事が行われ、調査区の7 m までが破壊され、1 m までが埋め立てられた。今回は、アラメ海中林の動態を調べた6年間のモニタリング調査の結果を、海中林の回復に関わる要因をふまえて紹介する。

6月

広域の種個体数分布と生物多様性の進化的基盤

深谷 肇一(生物多様性評価・予測研究室)

種個体数分布(SAD)は生物多様性の基本的な特性であり、これを理解することは生態学の重要な問題である。しかしながら、SADを調べるためには多くの種について個体を数え上げる必要があり、一般的に大きな労力を要する。そのため、現在様々な生態系で得られているSADは局所的なものに限られ、広域のSADについては理解がほとんど進んでいない。
本研究では、計画的調査から得られる種の反復出現データと、機会的調査や専門家の査定に基づく種の分布情報を統合して、広域で多数種の個体数を推定する新しい統計モデルを提案する。このモデルを日本列島全域で収集された大規模な木本群集データに適用し、1248種からなるSADを10km四方の解像度で推定した。広域のSADが得られたことで、生態学の重要な概念でありながらその実体は捉えどころのない、メタ群集の構造が明らかとなる。推定されたメタ群集SADに基づいて、4つの生物地理区で支配的な種分化様式と種分化率の地域間変異を推測した。

日本の維管束植物の遺伝構造類型化―遺伝的多様性に配慮した保護区設計を目標としてー

石濱 史子(生物多様性評価・予測研究室)

遺伝的多様性は生物多様性の重要な要素の1つとして、保全上の配慮が必要とされると共に、生物が気候変動等の環境変化に対して進化的に適応するための源泉である。また、看過されやすい生態系サービスとしても重要性が指摘されている。しかし、種内の遺伝的組成の空間分布(遺伝構造)について、実測データがある生物種はごく一部の種に限られており、多くの種を対象とした保護区の設計などに際して遺伝的多様性を考慮することは、現状では現実的に困難である。遺伝構造の実測にはサンプリング等に多大な労力を要するため、全ての種の遺伝構造を実測することはほぼ不可能と考えられ、遺伝構造を推定・補完する手法の開発が必要である。このような手法として、生態特性等に基づいた類型化や、シミュレーション等によるモデルの利用が考えられる。
本発表では、実データに基づいた類型化の試みとして、日本に生育する維管束植物について文献から遺伝構造のデータを収集し、新規に開発した遺伝構造の類似度指標を適用して、遺伝構造の類型化を行った結果を紹介する。