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1月

数値モデルを用いた気候変動に対する亜寒帯汽水湖の低次生態系の脆弱性評価

阿部 博哉(センター長室)

気候システムの温暖化は疑う余地のない現象であり、海洋の外洋域では水温上昇や酸性化、溶存酸素濃度の低下などが報告されている。しかしながら、将来想定される気候変動に対して浅海域生態系がどのような応答を示すかは気候モデルの結果のみでは評価できず、地域規模の特性を踏まえた上で評価を行う必要がある。
そこで本研究では、北海道東部の厚岸湖を対象とし、物質循環に基づく低次生態系モデルを用いて現況及び将来を想定したシナリオでの窒素、炭素、溶存酸素の動態をシミュレーションした。脆弱性の指標として、一次・二次生産量、溶存酸素濃度、炭酸系パラメータを挙げ、環境変化に対する応答を見積もった。

気候変動下における高山生態系の植生動態の解明

雨谷 教弘(生物多様性保全計画研究室)

気候変動が自然生態系へ及ぼす影響は特に高山帯で顕著であるといわれ、森林帯の上昇や植物の分布変化が多数報告されている。高山帯では様々な気象要因が微地形に対応して植物の生育と密接に対応しているが、特に多雪な日本の高山は植物群落が積雪環境を反映し、主に風衝地群落・ハイマツ低木群落・湿性草原群落へ大別される。風衝地群落では、冬季、強風により雪が吹き飛ばされることで土壌が凍結や著しい低温に晒され、植物は高い耐寒・耐凍性が要求される。湿性草原群落では、冬季は積雪による断熱、夏季は雪解け水により湿潤な環境が保たれるが、夏季の中頃まで雪が残り生育期間は短くなる。また、ハイマツ群落は風衝地群落と雪田群落の中間(冬季の積雪が約30cm~300cm)に位置する。従って、気候変動による高山植物の変化は特に積雪傾度を反映するハイマツ群落と湿性草原群落において顕著であると考えられる。
本セミナーでは、各群落の主要構成種であるハイマツとチシマザサの分布変化と気候への応答、湿性草原群落の植物種と群集の変化について報告する。

2月

セミナーはお休みです。


3月

生育温度がヤエヤマヒルギ実生の生残・成長・光合成に及ぼす影響

赤路 康朗(環境ストレス機構研究室)

温度は植物の成長を制御する主な要因の一つであり、植物が異なる温度に対してどのように反応するかを理解することは、気候変動後の成長変化や植生変化を予測する上で重要である。熱帯と亜熱帯域の潮間帯に生育するマングローブにおいては、土壌の塩分濃度や水位が成長に及ぼす影響について多くの報告があるものの、温度影響に関する報告は限られている。
そこで本研究では、マングローブの主要樹種であるヤエヤマヒルギ(Rhizophora stylosa)の実生を用いて、生育温度が生残率、成長速度、および光合成に与える影響を解明することを目的とした。15℃・20℃・25℃・30℃の生育温度では実験期間内(51日間)に全ての実生が生残したのに対し、35℃では全ての実生が枯死した。生残した実生について成長解析した結果、15℃で成長が最も遅く、25℃で成長が最も速いことが明らかとなった。ガス交換特性と葉のクロロフィル蛍光の解析結果から、15℃での成長速度の遅さは光化学系IIの低温障害によるものである一方、35℃での枯死は個体内の炭素不足が主な原因であると考えられた。

ネオニコチノイド系農薬類が水田のトンボ類減少にあたえる因果的影響の評価

中西 康介(リスク・健康C 生態毒性研究室)

水田は我が国における主要な農地であるが、湿地の生物多様性保全の場としても重要な機能を持っている。しかし農地であるがゆえ、様々な農作業による攪乱や化学物質の暴露を受ける不安定な環境でもある。赤トンボの代表であるアキアカネは、かつては日本全国の水田地帯でみられる普通種であったが、2000年前後から各地で激減したと報告されるようになった。その主な要因として疑われているのが1990年代後半から普及した浸透移行性のネオニコチノイド系やフィプロニルなどの育苗箱施用殺虫剤である。
本発表では、これらの農薬の影響についての既往の知見を整理するとともに、農薬出荷量データを分析し、アキアカネ個体数との関連について考察する。

オゾン等の大気汚染物質に対する植物の応答に関与する遺伝子とその機能

佐治 光(上級主席研究員)

大気汚染物質は植物にとってストレス因子として作用し、様々な影響を及ぼす。特にオゾンは植物に対する毒性が高く、広い地域で農業や生態系に被害をもたらしている。初期の生理学的研究から、植物のオゾン応答には、その吸収経路である気孔の開閉制御や吸収後の活性酸素・エチレン生成等が障害に関与することが示唆されてきた。その後、モデル植物を主な対象とした遺伝子・ゲノム解析の進展に伴い、我々を含むいくつかのグループの研究により、オゾン応答に関わる遺伝子とその機能が次々と明らかになってきた。
その結果、従来の知見が遺伝学的に確認されるとともに、それまで知られていなかった物質や反応の関与が明らかになり、全体的な応答に対する新たな仮説(オゾンによるプログラム細胞死の誘導など)が提案されてきている。