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10月

餌はどこ?自動車騒音で狩りの能力が低下するフクロウ

先崎 理之(生物多様性評価・予測研究室)

近年、自動車騒音が野生生物に及ぼす影響が懸念されている。生態系の頂上種である聴覚捕食者―フクロウ類―の採食効率の低下は、騒音の悪影響が憂慮される生態学的過程の一つである。しかし、騒音による聴覚捕食者の採食効率の低下は、室内実験で示されただけで、野外では実証されていなかった。
そこで本研究では、騒音の大きさが野生のフクロウ類の採食効率に与える影響を調べた。まず、特定の周波数の音を頼りに餌を探すフクロウ類の習性を利用し、野生のフクロウ類を誘引する人工音声を開発した。そして、北日本の103調査地点で、この音声と様々な音量の騒音を同時に拡声器で再生するプレイバック実験を行うことで、騒音とフクロウ類の採食効率の関係を調べた。
その結果、騒音の増加に伴いフクロウ類の採食効率が低下し、道路から120m以内の範囲でフクロウ類の採食効率が低下することが分かった。この影響範囲はコウモリの室内実験結果の2倍以上の値だった。これらの結果は、野生の聴覚捕食者への騒音の影響が従来考えられていたものよりも広域に及ぶことを示唆する。

遺伝子組換え植物を用いた低線量放射線による線量依存的なDNA損傷の評価

玉置 雅紀(福島支部)

福島第一原発事故に伴い、福島県は浜通りを中心に放射線量が高い地域を抱えることとなった。これまでにいくつかの生物では低線量放射線の長期ばく露が原因と考えられる形態異常が報告されている。しかしながら、これらの研究ではこのような形質発現の引き金となるDNA変異の有無について調べられていない。
そこで本研究では、DNA変異を引き起こすDNA損傷を検出できる植物を開発し、低線量放射線の長期ばく露によるDNA損傷を定量的に評価することが可能かどうか検証を行った。また、開発した植物由来の培養細胞を用いて、現場でのDNA損傷頻度の評価が可能かどうかも合わせて行なったので報告する。

福島県避難指示区域の昆虫モニタリング~より自動化されたモニタリングに向けて

吉岡 明良(福島支部)

2011年の東日本大震災に伴う原発事故は、大規模な住民の避難をもたらした。広域・長期の避難の影響を把握すべく、演者らは2014年より避難指示区域とその周辺で昆虫の調査を行ってきた。立ち入り制限のある避難指示区域においてなるべく幅広い昆虫類を対象として継続的に調査を行うためには、より省力的な調査方法をとる必要がある。
本発表では、比較的省力的な方法としてトラップを用いた送粉昆虫等の調査の現状や、赤トンボ類の自動撮影装置の開発・応用について紹介する。

11月

ホームレンジを形成する行動モデルとその推定

深澤 圭太(生物多様性評価・予測研究室)

今後人口減少が進む中で、鳥獣管理は明確な管理ユニットのもとで空間的な「選択と集中」をより強く迫られることになる。個体そして個体群の空間動態の適切な理解は、空間構造をもった野生鳥獣管理の成否を左右するといっても過言ではない。
本発表では、陸上動物の基本的な性質であるホームレンジを形成する行動プロセスを標識捕獲法で得られた野外データから推定する新たな方法論について論じる。この手法は個体の存在位置を2次元の確率分布の時間発展として記述することで、土地への執着や地理的障壁に関する少数のパラメータから複雑な行動圏を表現することが可能である点が有用と考えられる。

因果関係解析を用いた富栄養湖の一次生産量決定要因の解明

松崎 慎一郎(生物多様性資源保全研究推進室)

湖沼の一次生産量は、魚類など高次消費者の生産量を支える上で重要な基盤サービスである一方、一次生産量が高いと、アオコの発生など水質の悪化を招く。湖沼生態系管理上、一次生産量を決める要因を正確に把握することが不可欠である。
本研究では、Covergent Cross-Mapping(CCM)と呼ばれる因果解析手法を用いて、霞ヶ浦の一次生産量を決めている要因について分析した。一次生産量は、ボトムアップ効果(栄養塩)によって決まっていた。トップダウン効果(動物プランクトンによる捕食)の効果は小さかった、むしろ一次生産量の変動が、ワムシ類、ケンミジンコ類の動態に影響していた。さらに、ワムシ類、ケンミジンコ類とワカサギ(優占するプランクトン食魚かつ水産重要魚種)に正の相関関係が認められたことから、霞ヶ浦のような浅い富栄養湖では、「栄養塩→一次生産→動物プランクトン」のボトムアッププロセスが、ワカサギの資源量を支えている可能性が考えられた。

12月

鳥類の生殖発生毒性試験におけるモデル生物の遺伝要因の解析と改変

川嶋 貴治(環境ゲノム科学研究推進室)

環境中に拡散した農薬等の化学物質が鳥類の繁殖に悪影響を及ぼすのではないかとの懸念は古くからある。我が国では、平成15年の化審法改正に伴い、OECDによる国際公定法に準じて、鳥類の生殖発生毒性に関して、主に難分解性・高蓄積性の化学物質を対象にハザード評価が行われている。近年、米国EPAは、内分泌かく乱物質に対して、ウズラを用いた二世代繁殖毒性試験を提唱した。今後、試験データの再現性や信頼性の向上のためには、様々な化学物質に対する試験法の高度化と同時に、供試モデル生物の質的改良も求められている。
本発表では、遺伝子解析によって、国内で維持されているウズラ系統の遺伝的関係を示すとともに、遺伝的脆弱モデルを作出するために、ゲノム編集技術の導入によるウズラの遺伝子改変に向けた試みについて紹介する。

デジタル定点撮影による高山帯のモニタリングについて

小熊 宏之(生物多様性保全計画研究室)

温暖化の影響による高山植物の種類や生育場所、開花時期などのさまざまな変化が世界各地で報告されており、長期的なモニタリングの必要性が世界的に認識されている。日本の中部山岳地域は世界有数の豪雪地帯であり、気候変動による積雪量や融雪時期の変化は高山域の生態系に影響を与えると考えられる。しかし、高山域はその厳しい自然条件とアクセスの難しさから、これまで詳細なデータを広範囲で連続的に取得することが困難であった。
そこで2009年度から地球センターの温暖化影響モニタリング事業として高山帯モニタリングが開始され、山小屋との連携により定点撮影カメラの設置を進め、リアルタイムかつ多地点の積雪・融雪過程の把握や植生フェノロジーの観測を目的とした高山帯モニタリングを行っている。ここでは高山帯モニタリングの内容を紹介するとともに、気候変動下における高山帯の適応策検討を目的として昨年度から行っている大雪山国立公園の将来予測について簡単に触れる。