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4月

真核ピコプランクトンの多様性解析への凍結保存の適用

河地 正伸(生物多様性資源保全研究推進室)

海洋環境において、真核性ピコプランクトンは系統的に多様なフラクションであり、未知未培養性の種を多く含む。カルチャーコレクションで保存株の長期保存に使われてきた凍結保存法を真核ピコプランクトンを含む環境試料に適用して、 凍結保存試料から蘇生させた細胞について、フローサイトメトリ解析とソーティング試料の環境DNAバーコーディング解析から、多様性研究における有用性について検討を行った結果について紹介する。

熱帯林断片化に対する種多様性応答のタイムラグ

竹内 やよい(生物多様性評価・予測研究室)

土地利用の変化は、種多様性の減少の主要な要因である。しかしながら、土地利用の変化への生物個体群の応答は一般的にタイムラグが生じることが知られており、現在の種多様性は過去の景観の影響を受けている可能性がある。 本研究では東南アジアの熱帯林断片化景観を対象とし、森林断片化に対する種多様性の応答に25年のタイムラグが生じていることを明らかにした。また種レベルでの解析により、このタイムラグの有無が、どのような生物種の生活史形質と相関するかについても紹介する。

房総半島におけるイノシシによる農業被害リスクの推定

横溝 裕行(リスク・健康C リスク管理戦略研究室)

近年、複数種の大型哺乳類の増加により農業被害が増大しており、農業被害の低減のために捕獲が行われている。当該の自治体では、一定の予算や人的資源の範囲内で農業被害を低減する必要がある。 本発表では、房総半島を例としてイノシシの個体数密度と農業被害リスクを推定するための研究を紹介する。イノシシの個体数密度の推定に必要なデータは限られており、モデルの複雑さに比べてデータ量が不足している場合に起こる過剰適合を避けるために、ベイジアンモデル平均により推定を行った。また、農家を対象に実施した農業被害に関するアンケート結果に基づき、個体数密度と景観の両方を考慮した農業被害リスクの推定を試みた。

5月

温暖化影響下の藻場・サンゴ群集の分布推移における海流輸送と植食圧の影響

熊谷 直喜(センター長室)

温暖化影響に対応して生物種の分布が変化するならば、南限付近の衰退と北限付近の増大により、分布範囲は北方に平行移動する。しかし多くの種がこの仮定に反し、分布推移の方向・速度は多様である。 主要因のひとつは分散様式の違いとされるが、海藻とサンゴは共に受動的な分散様式をもち生息場所を共有するが、高緯度では海藻は分布を縮小しサンゴは分布拡大するという異なる分布推移パターンを示している。 この原因として、直接的な温暖化影響に加え、海流による分散や海藻への植食圧の影響が海藻とサンゴの分布推移パターンに影響すると考えた。海流が温度勾配に沿って流れる場合には温暖化からの逃避を促進すると期待できるが、 温度勾配に逆行する場合には障壁の効果をもたらすだろう。さらに、近年の藻場衰退をもたらす暖海性の植食魚類はその移動能力の高さから、海流輸送を最大限に分布拡大に活用できると予想される。 本講演では温暖化による水温変化と海流、植食圧の影響に着目し、これらの複合プロセスを組み込んだモデル(climate velocity trajectory)による予測を行った。

小笠原諸島のユスリカ相と生息環境の現況

上野 隆平(生物多様性資源保全研究推進室)

海洋島である小笠原諸島では多くの動植物が固有種として知られ、ユスリカ科昆虫についても26種中14種が現時点で固有種であると考えられている。本発表では、父島・母島調査で採集されたユスリカについて、 生息場所が判明しているものについてその特徴を示し、小笠原諸島におけるユスリカの生息場所の現況について報告する。また、最近のトピックとして、この1年間の記録的な渇水の結果生じた、生息場所の減少とユスリカ相の変化について紹介する。

6月

ブナにおける稚樹と成木のハビタットの違いに基づく更新適域の時空間変動予測

小出 大 (センター長室)

広域スケールで樹木の更新適地となる気候条件を解析することは、気候変動が樹木種に与える影響を明らかにし、その適応策を構築する上で重要な意味を持つ。 本研究ではsize-based species distribution model (SBSDM)を構築することによって、成木の分布する生育適域とは別に稚樹が分布する更新適域の時空間的な変化を予測した。 日本の冷温帯を代表するブナ(Fagus crenata)を対象種としてモデルを構築したところ、SBSDMは成木・稚樹とも適切に分布を説明でき、ブナ稚樹が成木に比べて多雪な環境に多く出現するというサイズによるハビタットの違いも表現できていた。 3種類の潜在分布域を現在と将来で予測したところ、成木&稚樹と成木のみの潜在分布域は今世紀末に向けて分布が縮小した。しかし稚樹のみの潜在分布域は雪が多い地域の温暖な場所においてむしろ増加した。 これはブナの更新を促進する雪が多い多雪地では、温暖化による更新適域の減少がある程度食い止められるため、稚樹のみの潜在分布域が広がったと推察された。 さらに稚樹が生育できる更新適域は、温暖で雪の少ない場所から減少が始まり、2060年代頃と今世紀末に気温の急上昇に伴って大きく減少することが予測された。

生物センターの広報・アウトリーチ活動

二宮 英美(センター長室)

生物センターの広報担当者ってどんな仕事をしているの?おそらく多くの方が疑問に感じているのではないでしょうか。研究所の一般公開の企画・運営やリーフレット等の広報資料作成のように、みなさんからみえ易い部分と、 普段はみえ難い部分をひっくるめてお伝えします。いつもの研究発表とは違いますが、みなさんが広報に求めること、広報としてみなさんとこんな風に関わりたいなど、ざっくばらんに、いろんな視点からお話する、そんな時間にできればと考えています。

変動する気候と生物の分布の反応

竹中 明夫(生物多様性評価・予測研究室)

日本各地の気象台・測候所・観測所では、継続的に気象観測が行われている。19世紀から継続している観測所だけでも60ケ所近い。それらの測定データと、生物の分布拡大の簡単なシミュレーションモデルを組み合わせて、 生物の分布が気温の年々変動にどのように反応すると期待されるかを検討した。モデルでは、生物は種により耐えられる低温に限界があり、年ごとの寒さに応じて潜在的な生育可能域が決まるとした。 どの測定点の気温データを見ても、年間最低気温や最寒月の平均気温は、年平均気温にくらべて大きな年々変動を示した。これに対応する生物の分布範囲の動態は、生物の分布拡大能力に大きく依存した。 分布拡大速度が小さい場合は、大部分の期間は特に寒い年に分布が南に押し戻された状態からの回復過程にあった。温暖化傾向は、ときおり起こる南への押し戻しの頻度や程度の低下に現れると予想される。 また、大きな分布拡大速度を仮定した場合、分布限界は最低気温等の年々変動に対応して大きく変化した。温暖化傾向の影響は、定点での観測頻度の長期的な変化に現れると予想される。