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1月

海洋島のメタ生態系モデル:土壌環境の不均質性の導入

吉田 勝彦(生物多様性保全計画研究室)

海洋島は一般に面積が小さいものが多いが、島の内部では場所毎の環境不均質性が見られ、生物の分布に影響を与えている。 小笠原諸島では、外来生物駆除などの各種生態系保全事業が行われているが、事業実施後の生態系変化を予測するためには、 島内の環境不均質性を無視することは出来ない。特に植物の生育に強く影響する土壌環境は非常に重要な要素となる。

そこで本研究では、これまで開発を続けてきた海洋島のメタ生態系モデルに土壌環境の不均質性を導入することを試みた。  本研究のモデルでは、土壌の移動による土壌pH・栄養塩量の変化を計算し、それによって植生がどのように変化するかを解析した。

その結果、ヤギ等の撹乱によって裸地化すると土壌が激しく浸食され、植物の生育に適さない貧栄養かつ強酸性の下層土が露出し、  そのことが外来ヤギ駆除後の植生の回復を遅らせる可能性が示唆された。


2月

微生物にとっての土壌環境

広木 幹也 (生態系機能評価研究室)

演者はこれまで、国立公害研究所、環境研究所の研究員として多くの研究テーマに関わることができたが、その多くは土壌中の物質動態と微生物との関わりについての研究であった。土壌は水圏などに比較して非常に不均一で複雑な系であり、その複雑さが土壌生物の多様性や機能を支えているともいえる。一方、その複雑さ故に、土壌の理化学性を単純に測定するだけでは、そこに生息する植物や微生物にとっての“住みやすさ”を十分に評価できない。演者は様々なフィールドで、重金属汚染や栄養条件の違いとそこに生息する微生物や機能との関係について調査してきた。これらの結果から、土壌微生物の視点で土壌環境を評価することについて考えてみたい。

絶滅危惧種のタイムライン―オガサワラヌマエビの発見から種の保存法への推薦まで―

佐竹 潔(生物多様性保全計画研究室)

「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)が制定されてから20年以上が経過している。環境省自然環境局では同法律の改正に向けて委員会を設置するなどして検討を行うとともに国内希少野生動植物種の提案を広く国民より募集して来た。演者は国立環境研究所での研究の一環として、小笠原諸島での水生生物の調査に携わって来たが、その過程で未記載のヌマエビ属の1種を発見することができた。同種は国内在来のヌマエビやヌカエビと卵サイズが大きく異なることなどから発見当初より固有種であると仮定して研究を進めてきたが、オガサワラヌマエビ(Paratya boninensis)としての新種記載と相前後して、いくつかの地点で分布が確認できなくなるという想定外の事態に見舞われた。その後、オガサワラヌマエビは環境省や東京都のレッドリストに掲載され、演者は各種委員会に招聘されるようになり、本種は保全すべき対象種として取り扱われるようになったが、より手厚い保全を行うためには国内希少野生動植物種への指定が必要であると考えて推薦を行った。本セミナーではこれらの経緯について振り返って紹介してみたい。


3月

渡り鳥による鳥インフルエンザウイルスの国内侵入パターンの特徴

大沼 学(生態リスク評価・対策研究室)

国立環境研究所では2008年より渡り鳥の糞便サンプルを使用した鳥インフルエンザウイルス(以下AIV)の全国サーベイランスを担当している。このサーベイランスの結果を活用して、国内のどの地域で野鳥からAIVが分離されやすいのか明らかにし、その結果を鳥インフルエンザウイルスリスクマップとして発表した(Moriguchi et al. 2013)。これにより、国内において、AIVが渡り鳥を含む野鳥から分離されやすい地域が明らかになった。しかし、AIVが国内に侵入する時期がいつなのか、AIVが分離されやすい時期が地域ごとに異なるのかは詳細が不明であった。そこで2008年~2015年のサーベイランスデータを利用して、全国レベルでのAIV陽性率の時系列変化を明らかにした。また、各地域別(北海道、東北、北陸、関東甲信、東海、近畿、中国、四国、九州)の陽性率の時系列変化を観察するとともに、陽性率の変化と渡りルートとの関連性を検討した。最後に昨年末から国内で相次いでいるH5N6による高病原性鳥インフルエンザの発生について概要を紹介する。

絶滅危惧種を対象とした流域圏における移動環境の保全と再生(ウナギを育む豊かな森川里海の絆と生態系サービスのより賢明な利用)

亀山 哲(生態系機能評価研究室)

自然共生研究プログラムPJ5サブテーマ3では「河川と海のつながりを重視した流域生態系の管理と保全に関する研究」を行っている。この中で絶滅危惧種であるウナギの空間分布と移動環境に着目し、流域圏における生息環境の保全と再生を目指してきた。現在、野外調査とGIS解析を用いて再生候補地の検討と有効策に関して評価を進めている。
ニホンウナギは日本人にとって長い文化的な関わり合いを持つ一般的な生物である。しかしその資源量は近年激減しており、2014年IUCNカテゴリーと2013環境省レッドリストにおいて絶滅危惧種(EN)に指定された。しかしその一方、広域的な分布や資源量の評価はこれまで殆ど行われていないのも事実である。
本セミナーでは、全国規模での生息地分布の変化と主に瀬戸内海流入流域圏における移動阻害状況について解説する。現段階で自然環境基礎調査や水辺の国勢調査等のデータベース化によって1990年頃を境にウナギの空間分布に大きな変化(瀬戸内海沿岸、紀伊半島南部、利根川流域上流部における生息域の減少)が確認出来た。
まだ始動一年目の取り組みであるが、単にウナギが河川に戻ってくる事が目的ではなく、その地域に豊かな森里川海の生態系が蘇り、それに支えられた幸福な人の暮らしが維持される事が最終の到達点であると考えている。