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10月

熱帯山地雨林の拡大過程における止まり木効果の重要性

藤田 知弘 (生物多様性評価・予測研究室)

熱帯林とサバンナが隣接する地域ではサバンナへの熱帯林の拡大が近年、報告されている。熱帯林の拡大メカニズムとして,、“Nucleation”と呼ばれるものがある。Nucleationとはサバンナに生育する樹木を“核”として熱帯林が拡大していく現象をいう。Nucleationでは核木による環境緩和効果が重要とされてきた。しかし、サバンナに飛び地状に熱帯林が形成される同作用では、種子の到着過程も重要であると考えられる。本研究はNucleationにおける種子散布過程の重要性を実証することを目的に調査を実施した。調査地にはサバンナ内にパッチ状の熱帯林が存在し、その中心部付近にはイチジクの大径木が特徴的に生育している。

そこで本研究ではイチジクを熱帯林形成の始点(核木)と仮定した。環境条件をイチジク下・サバンナ優占種下・樹冠なしで比較したところ、樹木下では、樹冠なしに比べて環境条件が緩和されていた。他方、両樹種の樹木下では環境条件に差はなかった。しかし、自然に生育している熱帯林樹種を3調査区で比較すると、93%がイチジク樹冠下で見つかった。これらの多くが動物散布種であった。この結果はNucleationが環境緩和効果のみでは説明がつかず、動物によるイチジク下への種子散布が関わることを示す。


11月

潮間帯におけるマングローブ植物の窒素獲メカニズム

井上 智美(環境ストレス機構研究室)

マングローブは、熱帯・亜熱帯の「潮間帯」に見られる森である。潮間帯は、潮の満ち引きによって干上がったり冠水したりを繰り返しているため、植物の生育状態を左右する土壌の理化学性が時間的・空間的に変動する。たとえば、冠水具合によって海水に由来する塩分濃度は0-30‰、酸素濃度は0-飽和濃度の幅で変動する。塩分濃度は根からの水分吸収や細胞の膜電位維持に影響を及ぼし、酸素濃度は根の代謝エネルギー生産に影響を及ぼす。また、潮汐変動に伴って土壌有機物が恒常的に海へと流出するような場所では低窒素に陥りやすい。この様な環境変動が日常的に起きている中で、マングローブ植物は生命活動を維持している。

本課題では、潮間帯という特異な環境下で暮らすマングローブ植物について、窒素獲得機構に焦点を当てながら検証を進めてきている。これまでの野外調査と室内実験によって、i) 窒素固定菌による植物への窒素供給の可能性 ii) 植物の根圏酸化機能と硝酸利用の可能性 iii) 植物の窒素利用にかかる根呼吸の可塑性 が明らかとなったので報告する。

霞ヶ浦のアオコ形成シアノバクテリア Microcystis aeruginosa を遺伝子解析から理解する:
ハウスキーピング遺伝子を用いた環境中での種内系統群の動態解析と培養株を用いた全ゲノム解析

山口 晴代(生物多様性資源保全研究推進室)

シアノバクテリアの一種である Microcystis aeruginosa は特に富栄養化した湖沼で大規模なブルームを形成することによって悪臭や湖底の酸欠を引き起こし,一部はミクロキスチンと呼ばれる毒素を生成するなど,環境問題の原因となる藻類として知られている.これまで,M. aeruginosa には遺伝的に分化した種内系統群の存在が認められること,培養株ごとに独自の遺伝子を相当数持っていることがわかっている.そこで,これまで詳細な遺伝子解析が行われていない霞ヶ浦を研究対象地域とし、どのような種内系統群がいるか、またそれらの種内系統群はどんな遺伝子を持つかを調べるため、1)ハウスキーピング遺伝子を用いた霞ヶ浦での種内系統群の動態解析、2)霞ヶ浦から得られた培養株を用いた全ゲノム解析を行ったので、それらの結果を紹介する。

12月

指標植物を用いた無居住化集落の生物多様性の評価

小林 慶子(生物多様性評価・予測研究室)

日本は人口減少社会に突入した。1900年代以降の100年間で約3倍に増加した人口は、今後100年間で1900年代と同程度の水準まで減少すると予想されている。 国土交通省の試算では、2050年までに現在の居住地域の約2割が無居住化するとされている。無居住化した地域では、 住民によって管理・利用されてきた二次林や農地が放棄されるなど、伝統的な里山景観が失われることにより、これまで里山景観を生育・生息地としてきた生物相にも影響がおよぶ可能性がある。

自然共生プログラムPJ1「人間活動と生物多様性・生態系の相互作用に基づく保全戦略に関する研究」では、人口減少にともなう土地利用変化に対する生態系の応答を評価するため、 全国各地で既に無居住化した集落とその近隣の有人集落において植物の分布状況の調査・比較を実施している。 本年は、東北で11か所、九州で10か所の無居住化集落とその近隣の有人集落での植物相調査を実施したので、その結果の速報を報告する。

Sparse S-map法のご紹介

鈴木 健太(生物多様性保全計画研究室)

近年、微生物叢のメタゲノム解析から得られるデータを視野に、多変量時系列から生態学的相互作用の推定・動態予測を行うための手法が提案されている。 今回はそのような手法のひとつとして開発したSparse S-map法(SSM)について解説する。SSMは、データの背後にある生態学的プロセスを数式化することなく 相互作用推定・動態予測を行う手法であり、対応する数式ベースの手法と比べより高い精確さを持っている。 また、ノイズやデータ量の制限についても十分なロバスト性がある。これまでの研究では、SSMを複数個体のマウスの生涯に渡る腸内細菌叢動態に適用し、 若齢から熟齢期にかけての動態はマウス間で共通したネットワークで説明することができない一方、熟齢から高齢期にかけては共通したネットワークにより説明ができることなどを明らかにしている。

光照射パターンが植物機能特性におよぼす影響

冨松 元(環境ストレス機構研究室)

自然環境下では、植物に照射される光強度は時間的に大きく変動する。例えば、時々の雲量や葉の動きによって光強度が数秒内に何百倍も変化する。 植物は、光資源を効率的に利用するために、光強度の増加・減少に対して迅速に応答するが、その応答のプロセスやメカニズム、 またその応答特性が植物の成長におよぼす影響等について十分にわかっていない。

そこで、近年普及してきた高輝度LEDを用いて、様々な「光変動パターン」が光合成機能、成長量におよぼす影響の研究を開始した。 さらに、二酸化炭素濃度や気温など他の環境因子が、上記の光合成応答プロセスやメカニズムにおよぼす影響についても実施する予定である。 これらの成果は、現在開発中の植物変動環境応答モデルに組込むことで、自然環境条件下での二酸化炭素吸収量や一次生産量を高精度に予測推定することが可能になると期待される。

本セミナーでは、今年度から開始した上記研究についての途中経過、新しくわかってきた知見について報告する。