海藻藻場やサンゴ礁により構成される沿岸生態系は高い生物生産性とバイオマスを有するが、近年の地球温暖化に伴う水温上昇がこれらの沿岸生態系の地理的分布に多大な影響を及ぼすことが懸念されている。
本研究では、南日本の海藻藻場の主要な構成種であるコンブ目海藻カジメの地理的分布に対する温暖化の影響に着目した。温暖化影響としては、水温上昇による生理的影響に加え、水温上昇による植食動物の摂食活動増大の種間的影響 という2つのプロセスを考慮した複合的な将来予測を行った。月平均水温の使用データは、IPCC第5次評価報告書の作成にも利用された、17のCMIP5気候モデルおよび4つの温暖化シナリオに基づく将来予測実験(RCP2.6、4.5、6.0、8.5シミュレーション)の結果を用いた。
その結果、いずれの温暖化シナリオにおいてもカジメの分布が北上・縮小することが示されたが、温暖化シナリオによって、生理的影響と種間的影響の双方が影響する場合と、その一方のみが影響する場合があることが明らかとなった。本研究の予測は、温暖化による直接的な作用だけでなく、種間相互作用の変化による影響もまた生物の分布予測をする上で重要であることを示した。
Fig.1 日本暖温帯域の藻場の主要な構成種であるコンブ目海藻カジメEcklonia cavaによる藻場
Fig.2 17の気候モデルによって予測された水温と摂食圧を用いた、2000年代と2090年代におけるコンブ目海藻カジメの地理的分布域の比較