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本研究実施の背景

生物多様性の宝庫、炭素の貯蔵庫と言われる熱帯林。しかし熱帯林は今だ急速に減少しており、国際的な環境問題となっています。熱帯林減少による二酸化炭素放出は、全球規模の気候変化の大きな原因の一つです。近年、異常気象の規模が極端化する、異常気象の頻度が増加するといった現象が発生しており、これらは気候変化の影響だと考えられています。熱帯地域も例外ではなく、本来湿潤であるはずが、降雨のない時期が長期化して干ばつとなったり、反対に降水量が極端に増加したりという現象が起きています。今後の気候変化、特に温度上昇や異常乾燥の増強の影響は、熱帯林の生態系プロセスや環境を変化させ、ひいては森林構造や生物多様性そのものに影響を与えると考えられます。その影響を検出するためには、大気・生物とそれらの相互作用系プロセスを統合的に解析すること、広域でモニタリングを行うことが必要です。

しかし、これまでの熱帯林モニタリングは、特定地域のみに人員と予算を集中的に投資して行われていました。特に、生物多様性に関する情報は現地調査を基本とするため、入手できる地域が限られているといった問題があります。また、熱帯林の不均一な環境を網羅した調査が実施されていないため、熱帯林の生態系機能に関する知見が不足しており、生態系機能の評価手法が確立されていません。東南アジアにおいて気候変化に対応した対策を講じるためには、東南アジア熱帯林の全域をカバーする生態系機能・生物多様性のベースライン情報、観測・評価体制を整備することは急務です。


目的と達成目標

本プロジェクトは、気候変化の熱帯林への影響の解明に向けて熱帯林の動態と変化を広域・長期的・高解像度でモニタリングする手法を開発することを目的とします。特に、 (1)大気圏と相互作用をもつ森林生態系機能プロセス、(2)森林・林冠構造の複雑性、(3)哺乳類の種多様性の3点に注目して、生物多様性・機能的多様性の評価法を確立します。最終的には(1)-(3)をつなぐことで、熱帯林の生物多様性・生態系機能の統合的な評価法を検討します。

国立環境研究所では、1991年にマレーシアのカウンターパートであるマレーシア森林研究所とマレーシアプトラ大学(UPM)との間でMoU締結し、パソ保護林においてインベントリー長期生態系調査を開始しました。本プロジェクトではこのサイトを拠点として上記の手法開発を行うとともに、ボルネオ(サラワク州)へ研究展開を行う基盤を整えることも目指します。


プロジェクト構成



本プロジェクトではサブテーマを三つ設けています。

サブテーマ1
生物起源揮発性有機化合物を含む植物生理機能の多様性評価手法の開発 (担当:斉藤、唐、冨松)

熱帯林の特徴の一つは、森林の構造が極めて複雑なことにあります。この複雑性は様々に変化する光環境を生み出し、それぞれの環境に順応・適応した植物が多様な生態系を作り出しています。サブテーマ1では、熱帯林内の多様な微環境と植物の機能特性との関係性を明らかにすることを目的とします。このため、熱帯原生林内に複数の計測拠点を設け、植物の生理機能特性と微環境の計測を行います。対象とする植物生理機能としては、生物起源の揮発性有機化合物(BVOC)の放出、ガス交換能、窒素含有量、形態特性、フェノロジー等とし、これら植物生理機能間、および生理機能と微環境との関連性を解析します。これにより、微環境の不均一性がもたらす植物機能の多様性を示す指標を開発します。

サブテーマ2
低高度リモセン技術を用いた林冠3D構造の復元手法と生物多様性指標の開発 (担当:竹内、三枝、平春)

熱帯林は、林冠層が30-40m、樹高が50mを超える突出木なども見られ、複雑な階層構造を持つ森林です。この発達した階層構造は、熱帯林の高い種多様性を説明する要因とも言われています。サブテーマ2では、熱帯林の複雑な森林構造(特に林冠部)と生物多様性の関係性を明らかにすることを目的とします。UAVなどの低高度リモセン技術を用いて熱帯林の林冠構造を3次元で復元する方法を確立し、林冠の複雑性を示す指標を開発します。そして観測された生物多様性との関連性を解析します。また、林冠状態と林床環境・機能との関係(サブテーマ1と連帯)、植生、林冠状態と動物の分布の関係性(サブテーマ3と連帯)についても検討します。熱帯林の森林構造が、生物多様性・生態系機能とどのように関わっているのかを明らかにします。

サブテーマ3
メタバーコーディング技術を応用した陸上動物の多様性評価手法の開発 (担当:大沼)

熱帯林内で採取した雨水には分布する動物の糞、尿、皮膚組織等が含まれている可能性があります。そのため、熱帯林内で雨水を採取することで熱帯林内に分布する動物の種類を明らかにすることができる可能性があります。類似の研究は魚類ですでに報告があり、糞などとともに水中に放出されたDNAを解析し、そこに生息する魚の種類を判定する技術が開発されています。本サブテーマでは、魚用に開発された技術を熱帯林内で採取した雨水に応用できるよう改良を加え、熱帯林内で採取した雨水を分析することで分布する動物の種類を明らかにできる手法を開発します。





研究メンバー

代表

大沼 学(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)

分担者

斉藤 拓也(国立環境研究所 環境計測研究センター)  竹内 やよい(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)
唐 艶鴻(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)  三枝 信子(国立環境研究所 地球環境研究センター)
冨松 元(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)  平 春(国立環境研究所 地球環境研究センター)

協力者

林 真智(JAXA)

関連リンク

マレーシア・パソ保護林 NIES-FRIM-UPM 熱帯森林生態及び生物多様性の共同研究
Forest Research Insitute Malaysia (FRIM), Malaysia(マレーシア森林研究所)

Last updated Jan. 16, 2017