生態学分野&社会学分野の研究発表会 | 生物・生態系環境研究センター

生物多様性保全に関する社会-生態科学連携研究会

生態学を専門とする生物・生態系環境研究センター所属の研究者と、社会科学や経済学を専門とする社会環境研究センター所属の研究者、さらに所外の各専門家をお招きして研究会を開催しています。
互いの専門分野への理解を深め意見を交換しあい、横断的な研究提案に向けて議論をすることが目的です。

第1回~7回の話題一覧

(敬称略、下に要旨をまとめて掲載しています)

第1回 2011年12月22日(木)
「土地利用変化に対する生物の応答を考慮した最適保全戦略の特定」
角谷 拓 (国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)要旨LinkIcon



第2回 2012年1月10日(火)
「サンゴ礁の価値評価と陸域での保全策」
山野博哉 (国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)要旨LinkIcon
「生態系サービスの経済価値評価と生態系保護政策」
吉田謙太郎 (長崎大学)要旨LinkIcon



第3回 2012年2月17日(金)
「Optimal Strategies for the Surveillance and Control of Forest Pathogens: A Case Study with Oak Wilt」
堀江哲也 (上智大学)要旨LinkIcon
「生物多様性は目的か手段か―生態系サービスから考える―」
森 章 (横浜国立大学)要旨LinkIcon



第4回 2012年3月8日(木)
「メコン川の開発と環境変化」
福島路生 (国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)要旨LinkIcon
「カウントデータモデルを用いたレクリエーション便益評価」
野原克仁 (北星学園大学経済学部)要旨LinkIcon



第5回 2012年5月14日(月)
「社会分野からの話題提供―森林認証制度とその関連研究―」
立花 敏 (筑波大学)要旨LinkIcon
「都市緑地を対象とした生物多様性の評価について」
富田基史 (電力中央研究所)要旨LinkIcon


第6回 2012年6月26日(火)
「REDD+と生物多様性保全」
森田香菜子 (国立環境研究所 社会環境システム研究センター)要旨LinkIcon
「海洋島における外来生物の駆除が生態系の物質循環に与えるインパクト:コンピュータシミュレーションによる解析」
吉田勝彦 (国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)要旨LinkIcon


第7回 2012年9月19日(水)
「「生物多様性問題」を解決するために、なぜ協働が必要なのか?-質的社会調査アプローチによる環境倫理・政策研究-」
二宮咲子 (東京大学)要旨LinkIcon
「生物多様性バンキングにおける生物多様性・生態系サービス評価の論点と課題」
林希一郎 (名古屋大学)要旨LinkIcon

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要旨



「土地利用変化に対する生物の応答を考慮した最適保全戦略の特定」
角谷 拓 (国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)

人口の減少による里山の放棄などにともなう土地利用の変化によって、多くの絶滅危惧種の存続が脅かされている。これらの保全のためには、限られた時間とコストの中で、できうる限りの効果的な対策を講じる必要がある。将来の絶滅危惧種の減少に関わる駆動因の大きさや変化のトレンドは常に一定ではなく、自然環境および社会・経済状況の変化に応じて大きく変動しうる。このような状況下では、現在の状況のみから効果的と判断される保全対策が将来にわたって適切なものであるという保証はなくなる。したがって、駆動因の大きさやトレンドの将来変化を考慮して対策をたてることは極めて重要な課題といえる。本講演では、日本国内における絶滅危惧維管束植物を対象とした研究事例を紹介し、土地利用の変化や絶滅危惧種の減少率などの関する将来の不確実性にどのように対処し、効果的な保全策を導きだせば良いかについて議論したい。

「サンゴ礁の価値評価と陸域での保全策」
山野博哉 (国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)

サンゴ礁は高い生態系サービスを提供しているが、特に陸域に隣接した沖縄のサンゴ礁は農地からの赤土流出により衰退しており、陸域での対 策が必要とされている。本発表では、まずサンゴ礁が提供する生態系サービスとその価値化について紹介し、サンゴ礁が高い価値を持っている ことを示す。次に、WWFと我々が行っている沖縄県久米島での赤土流出対策に関して紹介し、陸域で試算した対策費用とサンゴ礁の価値を比較して、サンゴ礁が相対的に高い価値を持っていることを示す。こうした結果に基づいて、陸域対策を進めるための方策に関して議論する。

「生態系サービスの経済価値評価と生態系保護政策」
吉田謙太郎 (長崎大学)

生物多様性、生態系、生態系サービスの社会経済システムの中で主流化するために、それらの経済価値を評価し、可視化することが求められている。環境経済学分野において発達した環境評価手法は多様であり、限定されたデータを用いて経済価値評価するためのアプローチについて紹介する。とりわけ、COP10において統合報告書が公表されたTEEB(生態系と生物多様性の経済学)プロジェクト及び新たな国際機関IPBESの動向について紹介することにより、政策的位置づけについても説明する。奥会津森林生態系保護地域、水源環境保全税の経済評価事例、そして鹿児島県出水市のツル保護事例などの生態系サービスへの支払いについても紹介し、今後の研究方向性について議論する。

「Optimal Strategies for the Surveillance and Control of Forest Pathogens: A Case Study with Oak Wilt」
堀江哲也 (上智大学)
To slow the spread of damaging forest pathogens, cost-effectivestrategies are needed to find and remove diseased trees. We develop a model of optimal surveillance and control of forest pathogens when the number of infected trees is uncertain. Our model finds the best allocation of a limited budget between surveillance and control activities as well as the optimal spatial allocation of these activities when the goal is to minimize the expected number of new infections. We allow for a heterogeneous landscape, where grid cells may be differentiated by the number of trees, the expected number of infected trees, rates of infection growth, and costs of surveillance and control. In our application to oak wilt in Anoka County, Minnesota, USA, we develop a cost curve associated with the expected fraction of healthy trees saved from infection. We find that the marginal cost of saving an additional fraction of healthy trees from infection increases as the fraction of healthy trees increases. With more precise prior estimates of the number of diseased trees, the optimization model finds even more effective strategies. We also explore the performance of rules of thumb based on site characteristics. For a landscape differentiated only by the number of trees and the expected number of infections, we find that the best rule of thumb is to prioritize sites with a high proportion of infected trees. Our model provides practical guidance about the spatial allocation of resources to surveillance and control of well-studied forest pathogens when only modest information about their geographic distribution is available.

「生物多様性は目的か手段か―生態系サービスから考える―」
森 章 (横浜国立大学)

生物多様性の保全と生態系サービスの保全の重要性は、国際的な枠組みを含めて、広く認識されている。しかしながら、両者の保全には、異なる視点が存在する。ここでは、Conservation perspectivesとEcosystem services perspectives に分けて、現在の知見とこれからの研究の発展性について、自身の研究と既存の研究からの「私見」を述べる。

「メコン川の開発と環境変化」
福島路生 (国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)

インドシナ半島を流下する国際河川メコン川は世界の河川でアマゾン川に次いで2番目に淡水魚類の種数が多い。また魚類生産は年間約260万トンとも見積もられ,世界最大規模の内水面漁業を誇る。この河川流域には近年,大型の発電用ダムの建設計画が急増し,河川の生物多様性と生態系サービス,すなわち流域人口約6000万人を支える食料資源を脅かしている。本セミナーでは演者がこれまでに行ってきたメコン川の代表的回遊魚Siamese mud carpの回遊生態解明の研究成果,また今年度から取り組んでいるメコンの物質循環に関するプロジェクトの紹介を行う。著しく改変するであろうメコンの環境を保全する上で,自然科学と経済学がどのように貢献できるかについて考えてみたい。

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「カウントデータモデルを用いたレクリエーション便益評価」
野原克仁 (北星学園大学経済学部)

観光は、旅行業をはじめ宿泊業や飲食業など、広範な産業にわたっており、その経済波及効果は極めて大きいと言え、地域の自然環境を直接体験する身近における唯一の機会であるとも言える。観光は持続可能な社会の実現に不可欠である環境教育としての側面を持つことから、観光の促進には一定の効験が期待される。そこで、観光により直接触れ合う地域環境の改善がどれほどレクリエーション便益を増加させるか計測するため、家計生産関数アプローチを導入した理論モデルの構築を行い、それを実証分析に応用した。実証分析の対象地は、国内有数の自然環境を有する北海道とし、オンサイトサンプリングによるデータ収集を行い、カウントデータモデルによる旅行需要関数の推定を行った。北海道観光のレクリエーション便益を計測することは、生態系サービスの一つとして挙げられる文化的サービスの価値を測ったものであると言え、近年注目されている生物多様性の保護施策に提言し得るものである。

「社会分野からの話題提供―森林認証制度とその関連研究―」
立花 敏 (筑波大)

本講演では、持続可能な森林経営に関する国際的な枠組みづくりを詳解し、それを踏まえて森林認証制度の展開と課題を論考した。
持続可能な森林経営の枠組みづくりは、1992年に開催されたリオ・デ・ジャネイロでの「環境と開発に関する国際連合会議」における「森林に関する原則声明」を契機に国際的に展開した。特に、カナダが提案した持続可能な森林経営の基準・指標により、国際的な枠組みが各地域で拡がりを見せ、世界の森林面積の8割に達するまでになった。日本は、その世界的枠組みの1つであるモントリオール・プロセスに参加しており、その基準・指標も参考にして2001年に森林・林業基本法が改正された。持続可能な森林経営の実現方策には、生態系の管理(ecosystem management)、参加型の経営(participatory management)、森林の状態や時代の要請に柔軟かつ迅速に対応できる森林の取り扱い(adaptive management)がある。
森林認証制度は、環境面、経済面、社会面においてより具体性を持った原則や基準を有し、第三者機関による認証であることに特徴がある。世界定には2つの潮流がある。森林管理協議会(FSC)は、1993年に世界自然保護基金(WWF)などの環境NGO により設立され、パフォーマンス(施業・管理)を重視し、一元的な制度となっている。FSCは徐々に地域認証へと展開している。欧州森林認証プログラム(PEFC)は1999年に欧州11カ国の森林所有者や林産会社、商社などにより発足し、ISO環境マネジメントシステムを援用したシステム重視型を採り、各国認証との相互承認によるアンブレラ型の制度となっている。
森林管理(FM)認証やCoC認証は欧米を中心に展開し、その面積も件数も増加傾向にある。国によりFSCかPEFCかに重きのあることが特徴であり、森林減少の続く熱帯諸国で拡大できるかが重要な課題となっている。日本には、FSCと日本独自の制度であるSGECの森林認証があり、FM認証もCoC認証も概ね増加傾向にある。森林認証制度は、一定の基準による財への認証とラベリングにより流通経路を生産地まで遡ることができ、国際問題として取り組まれている違法な森林伐採・取引への対策としても期待されている。



「都市緑地を対象とした生物多様性の評価について」
富田基史 (電力中央研究所)

質・量は劣るものの人間にもっとも身近な生態系であることから,公園や企業緑地などの都市緑地がもつ生物多様性の価値が近年注目されており,生物多様性保全や生態系サービスの発揮を目的とした緑地創出・管理への関心が高まっている.生物多様性に配慮した都市緑地の管理を行うためには,その価値を定量的に評価することが不可欠である.本発表ではまず,都市緑地の生物多様性の価値評価に利用できると思われる手法をいくつかピックアップして紹介する.具体的には,ハビタット評価手続(HEP)に代表される海外の生物多様性オフセット・バンキング制度等で利用されている生態系の手法,および都市緑地の生態系機能の評価手法等をとりあげて,それぞれの長所・短所を議論する.これらをふまえて,現在利用できる評価手法の問題点と今後の課題を議論したい.

「REDD+と生物多様性保全」
森田香菜子 (国立環境研究所 社会環境システム研究センター)

気候変動の緩和策として注目されているREDD+(森林減少・劣化に由来する排出削減等)は、温室効果ガス排出削減だけでなく、生物多様性保全等の効果も期待されている。排出削減だけでなく、生物多様性保全も含むREDD+の効果を最大化するには、REDD+実施に関わる制度・アクター間の効果的な連携、特に生物多様性保全関連の制度・アクターとの連携が不可欠である。本発表では、これまでに行ったREDD+実施に関わる2つのレベルの制度・アクター分析((1)国際レベル:国連気候変動枠組条約と生物多様性条約、(2)国内レベル:カンボジアにおける諸制度・アクター)を紹介し、REDD+の効果を最大化する制度設計の課題を示す。

「海洋島における外来生物の駆除が生態系の物質循環に与えるインパクト:コンピュータシミュレーションによる解析」
吉田勝彦 (国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)

外来生物は重要な環境問題の一つであるが、特に外界から隔離されていた海洋島でその被害が顕著である。先頃世界自然遺産に登録された小笠原 諸島も例外ではない。そのため、現在外来生物の駆除事業が行われている。外来生物の中には侵入先の生態系で大繁栄したものもいる(小笠原諸島 のヤギやネズミがその一例)。それらを駆除すると、生態系の物質循環を撹乱し、さらなる在来生物の絶滅を引き起こす可能性がある。在来生物を 保全するためには、考えられる駆除シナリオを評価する必要がある。そこで演者は小笠原諸島媒島(なこうどじま)を例に、その生態系を再現する 数理モデルを開発し、そのモデルを用いて外来ヤギとネズミを駆除するコンピュータシミュレーションを行っている。本講演では小笠原諸島の簡単 な紹介、生態系モデルについての一般的な説明、開発した生態系モデルの概略を説明し、シミュレーションの主要な結果について報告する。

「「生物多様性問題」を解決するために、なぜ協働が必要なのか?-質的社会調査アプローチによる環境倫理・政策研究-」
二宮咲子 (東京大学)

近年、生物多様性保全の政策的取り組みでは、行政・専門家・NPO・地域住民・民間事業者・市民ら“多様な主体の協働”が求められている(「生物多様性基本法」第21条、「生物多様性地域戦略策定の手引き」等)。しかし、協働の現実は、政策の実施効率を下げていると評価されるなど、それほど甘いものではない(総務省(2010)等)。では、“なぜ「生物多様性問題」を解決するために協働が必要なのか?”。この問いは、次のような課題群を包含している。“「生物多様性問題」とは何か?”。“その「解決」とはどのようなものか?”。そして“「協働」とはどのようなものか?”。今回の発表では、これらの課題群を具体的に分析するために実施した、釧路湿原流域をフィールドとした質的社会調査アプローチによる環境倫理・政策研究報告を行う。事例分析の対象地は、塘路湖周辺地区と鶴居村で、それぞれ、多様な主体による協働の課題を抱えながら、かつ、課題を乗り越えようとする新たな協働の試みがみられる地域である。これら2つの事例分析から、“そもそも「生物多様性問題」とは何か?”を問う過程で多様な主体が協働することの重要性を示す(従来の制度化された協働が、科学的知見を普及啓発する手段に限定されてしまうことが引き起こす社会的不公正に無自覚であることへの批判として)。また、自然生態系と密接にかかわる人間社会の生業・生活の地域特性及び歴史的文脈を踏まえて「生物多様性問題」を定義づける過程を「ローカルな問題化の過程」と名づけ、概念提起する。加えて、「ローカルな問題化の過程」における協働の特質に着目し、自然生態系や人間社会の変化(通時的多様性)・バリエーション(共時的多様性)への応答性があることから、それを「順応的協働」と名づけ、概念提起する。以上の研究報告から、「生物多様性問題」を解決するために協働が必要な理由、それは、私たち一人ひとりが自らの生き方の問題として、「生物多様性問題」に向き合う必要があるからだといえよう。

「生物多様性バンキングにおける生物多様性・生態系サービス評価の論点と課題」
林希一郎 (名古屋大学)

土地の改変を伴う開発事業を実施する際に、生態系や生物・生息地を保全するために、それらへの影響を回避・最小化し、その後に残る影響について自然復元等による代償措置によって影響を軽減する政策手法が米国や豪州等諸外国で導入されており、通称、生物多様性オフセットとよばれる。また、生物多様性オフセットの仕組みの中で、第三者が事前に自然保全または自然再生・創出活動を実施し、開発行為の代償に利用する仕組みが生物多様性バンキングであり、特に米国や豪州等での事例が多い。
本報告では、米国のMitigation Banking(MB)、Conservation Banking(CB)および豪州のブッシュブローカー、Biobankingの4つの制度を概観する。引き続き、これらの制度が抱える生物多様性評価手法の課題を整理し、生物多様性全体の評価の論点を明らかにする。その後、愛知県の森林、名古屋市の都市森林・緑地で現在実施している生物多様性・生態系サービスの総合評価の研究について途中経過を報告する。