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2012年度ブループラネット賞受賞者による記念講演会

2012年度のブループラネット賞受賞者であるウィリアム・E・リース教授(ブリティッシュ・コロンビア大学教授、カナダ王立協会FRSC]フェロー)とマティス・ワケナゲル博士(グローバル・フットプリント・ネットワーク代表)および、トーマス・E・ラブジョイ博士(ジョージ・メイソン大学環境科学・政策専攻教授)による記念講演会が、2012年11月2日、国立環境研究所地球温暖化研究棟 交流会議室で行われました。講演内容(要約)を紹介します。

ブループラネット賞および受賞者の略歴については旭硝子財団のホームページを参照してください。


 「気候変動の大胆な解決法」

Dr. Thomas E. Lovejoy(トーマス・E・ラブジョイ)さん
(ジョージ・メイソン大学環境科学・政策専攻教授)

DrLovejoy1.jpg2012年6月、世界の国々は再びリオデジャネイロに集まり環境問題について議論しました(国連持続可能な開発会議:リオ+20)。その会議で、有名なPlanetary boundaries analysis(地球の限界分析)の図に参加者の関心が集まりました。その図表は十分なデータが揃っている環境指標のうち、窒素循環、気候変動、生物多様性が既に限界を大幅に超えていることを示しています。私は、その一つである窒素循環の異常については正しく評価されていると考えています。もう一つの気候変動については過小評価されていると思います。その理由についてこの講演で理解していただければと思います。そして、生物多様性が他の二つの要素より大幅に限界を超えていることも理解できます。生物多様性はすべての環境問題の影響をまとめて受けるものですから、当然、このような結果になるのです。

1896年にスウェーデンの科学者スヴァンテ・アウグスト・アレニウス(Svante August Arrhenius)は非常に重要な疑問をいだきました。「なぜこの惑星は人類や他の生命体にとって好適な温度なのだろうか?なぜ寒すぎないのか?」彼の明晰な答えは「温室効果ガスがもたらす温室効果によって地球が暖められるから」でした。
しかし、そのとき彼は地球の過去数百万年の気候変動の歴史について、特に過去1万年間は異常なほど安定していたことについては知りませんでした。この1万年の間、安定した気候のもとに、農業が開始され、人間による開拓が始まりました。同じ1万年間に、すべての生態系は気候に適応してきました。しかし今、人間は大気への二酸化炭素(CO2)の放出によりその気候を変えつつあります。地球の気温は産業革命前に比べて0.8から0.9℃高くなっています。

自然界に見られる変化

CO2の放出とそれに伴う気温上昇により、自然界ではどのような変化が起きているのでしょうか。
湖では秋の結氷時期が遅くなり、春の解氷時期が早まっています。世界の多くの地域で、氷河の減少がみられ、アメリカのグレイシャー国立公園のグレイシャー(氷河)は近いうちに名ばかりとなるでしょう。
熱帯では、キナバルやキリマンジャロの山頂に氷河がありますが、これも15年以内には消失する速度で減少しています。水温の上昇による膨張だけでなく陸上で溶けた水が流れ込むことにより海水面が上昇しています。
そして、数が増えるだけでなく、さらに強力な熱帯性の竜巻が発生する懸念もあります。その科学的根拠はまだ確実に解明されてはいませんが、その傾向があることがわかっています。アメリカの西部と南西部で山火事が増えていることも明らかです。

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生物に起きている変化

日本でも同じような現象が起きていることと思いますが、植物の生活史に変化が起きており、アメリカ北東部ではライラックの開花時期が早まっています。英国王立植物園のキューガーデンでは多くの植物種の開花が早まっています。動物にも変化が起きています。北アメリカでは、ツバメの渡りの時期、巣作りの時期、そして卵を産む時期が早まっています。移動をやめてしまった渡り鳥もいます。
もっと重大なのは、生物の生息場所の変化です。北アメリカで、最もよく研究されているチョウ2種のうちの一つ、Edith’s Checkerspotは好適な環境を求めて北へ、そして標高の高いところへ移動していることが明らかになっています。カリフォルニア州では、ジョシュア・ツリー(Joshua Tree)がジョシュア・ツリー国立公園の外に移動しています。
このような変化は陸地だけでなく海洋でも起こっています。魚類やプランクトンの分布が変化しています。北アメリカ最大の湾口であるチェサピーク湾では、アマモ(eel grass)が水温上昇にとても敏感であることがわかりました。この種は年々北に生育場所を移動しています。
さらに、変化は熱帯地域でも見られます。コスタリカのモンテベルデにある有名なクラウド・フォレストでは水分量の98%を雲からの供給に依存しています。しかしモンテベルデでは乾燥した日が増えており、雲は以前より高標高地で作られることが多くなりました。雲から供給される水分を基盤とした生態系では問題であることは間違いありません。
ここまでのお話は単なる一例や逸話ではありません。現在、世界のあらゆる場所で自然が気候変動の影響で変化していることが、統計的にも明らかになっています。しかし、これらは生き物に起きているさざ波程度のものでしかありません。本当の課題は、この先地球はどうなっていくのか、ということです。

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この先、地球はどうなっていくのか

種の生息に適した気候条件がわかれば、今後の変化が予測できます。アメリカ北東部でよく見られるサトウカエデは、CO2濃度が産業革命前の2倍になる頃には、カナダでしか見られなくなるということがコンピュータモデリングの結果で示されています。
変化は気温だけではありません。陸上生物にとって重要な物理的要因である気温と水分量、水生生物にとって重要である気温とpH(酸性度)にも変化が出ています。サケ科魚類など、冷たい水の中に生息する種も影響を受けます。また、標高の高いところに生息する生物の多くは、より高いところに移動していきますが、これ以上移動できないというところまで行ってしまうと大変なことになります。
沿岸の生物は海面上昇に影響を受けます。フロリダキーズのように海抜の低い島の生物は、島そのものを失います。またそれ以外の島でも、生物がこれまで適応してきた気候ではなくなります。歴史的に氷と密接にかかわってきた種ももちろん深刻な影響を受けます。ホッキョクグマはそのほんの一例に過ぎません。
気候変動が進むにつれて、複雑な問題が数多く生じています。過去の気候変動では、生物多様性が大幅に損なわれるということはありませんでした。しかし、過去と現在の大きな違いは、人間活動によりランドスケープ(土地利用・地形)が大きく改変され、ほとんどの生息地が分断されているということです。以前なら気候の状況に応じて生物が移動できた経路が今は人間により分断され、移動が困難になっています。
さらに気候変動が進むと、現在の生態系が崩壊し、残った種が想像のできない新たな生態系を作るでしょう。ヨーロッパ最後の氷河が後退した後の哺乳類3種、樹木2種、昆虫1種の移動の様子を分析した結果、共通のパターンが見られなかったことからも推測できると思います。
また、コンピュータモデルでは、気候変動は直線的で徐々に起こることが想定されていますが、実際の気候システムはそのようには機能しません。

気候変動の影響は過小評価されている

さらに、私が「システムチェンジ」と呼んでいる大規模な変化が起きています。その一つがアマゾン流域での水の循環に起きています。
熱帯大西洋から運ばれる水分がアマゾン流域に入り、循環しながら流域内の降雨の約半分の供給源となります。最終的にはアンデス山脈の高い壁にぶつかって雨に変わりアマゾン川水系に入ります。一部は川をそれてアマゾン川の南に降り、とりわけブラジル有数の農業地帯をはじめ、アルゼンチンの北部までの幅広い地域に雨をもたらします。
最近の解析の結果、森林破壊、焼畑、気候変動が組み合わさり、アマゾン地域の南部と東部で乾燥状態になる、という予測が出ています。これは生物多様性だけでなく、アマゾン地域に暮らす人々にとっても大きな問題です。ただ、積極的な森林再生に取り組むことにより、状況は改善することができます。
2005年まで見過ごされてきたもう一つの大きなシステムチェンジは、過剰なCO2が海水に溶け込んで起こる海洋酸性化です。現在、海洋中の酸性度は産業革命前よりも高くなっています。海洋酸性化は、既に小さな巻貝やサンゴをはじめとする生物に影響を与えていることがわかっています。
ここまでのお話から一つ重大な結論が見えてきます。それは国際交渉の場で温室効果ガス濃度の安定化目標の上限として設定された大気温度の上昇2℃、CO2濃度450ppmという値は高すぎるということです。0.8や0.9℃の上昇で、生物多様性には既に劇的な変化が起きているのですから、その2倍の上昇が起きたらさらに深刻な変化が起きるでしょう。したがって上限値を気温上昇1.5℃/ CO2濃度350ppmに抑えるべきだと私は考えています。その場合、世界のCO2排出の増加は2016年を境に減少に向かわせねばなりません。

生態系の助けを借りる解決法

良いニュースは、これらの問題についてできることがある、ということです。たとえば、保全策の見直しや温室効果ガスの制限です。保全策については、ランドスケープの自然な連続性を取り戻すことで、生物がより移動しやすくなるようにし、他の悪影響を抑制することもできます。エネルギー問題にも、緊急性をより高めて取り組むことはできるはずです。熱帯林の伐採により排出されるCO2についても最小限にできるはずです。
2℃の気温上昇を回避するためにはさらに検討すべき課題があります。
現在、化石燃料の燃焼と熱帯林伐採によりCO2が排出され、その約半分が大気へ、残りの半分がそれぞれ陸地と海洋にほぼ均等に吸収されます。この流れを変えなくてはなりません。
温室効果ガスは大気中に長期にわたり残存し、放射熱を閉じ込めてしまいます。CO2を大気から取り除くことができれば、自然と温暖化も抑制することができます。
そこで地球の生物を使ってCO2を取り除き、気候変動を抑え、生態系、生物多様性、そして人類への影響を緩和することが挙げられます。
地球のこれまでの歴史の中で、CO2濃度が非常に高くなったことが二度ありました。しかし驚くべきことに、その両方において、生物の活動によって産業革命以前のレベルまで下がっています。濃度の低下をもたらしたのは、植物の光合成の力だけではありません。地球上に土壌が生まれ、土壌中の無数の生物の働きが加わって初めて可能になりました。
現在の大気中のCO2の余剰分の大部分は3世紀にわたる生態系破壊の結果です。地球全体で生態系の復元を行えば、50年間で大気中のCO2濃度を最大50ppm減らせる可能性があります。今後人口増加により農産物の生産性を上げなくてはならないことを踏まえても、これは実現可能です。森林を再生して適切に管理し、さらに草原と放牧地も復元と管理の向上を行えば、炭素の大幅な削減が図れるでしょう。また、農業においても、炭素を放出するのではなく蓄積するようなシステムを採用することも大いに役立ちます。

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青い地球は緑の地球でもある

最後に、ブループラネットはグリーンプラネットでもあるということを強調したいと思います。私たちは生態系がもつ生物の力で、人類が立ち向かわなければならない気候変動の問題を緩和することができます。つまり、生物の力を借りて、この惑星を人間やその他の生命体にとって暮らしやすい場所にするということができるということです。

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訳:生物・生態系環境研究センター広報担当

本稿の訳にあたり、以下の資料を参考にさせていただきました。
平成24年度(第21回)ブループラネット賞受賞者記念講演会講演録(公益財団法人 旭硝子財団)


 「持続可能な世界をつくるために世界規模での対話を始めよう」

Professor William E. Rees(ウィリアム・E・リース)さん
(ブリティッシュ・コロンビア大学教授、カナダ王立協会[FRSC]フェロー)

人間と自然システムとの関係を理解するために必要なこと

1.jpgここ数年の私の関心は「私たちがしているいくつかのことは、遠い将来に対して極めて危険であることを知ること」と、「私たちは特定の考え方に囚われているため、この問題に対処することができないこと」との間の認識のずれを理解することに向けられてきました。私の見解では、人々の自然システムの捉え方と現実の自然システムの反応との間には根本的な矛盾があります。私たちが、自然について誤った考えで行動すると、持続不可能な現象が起こってしまいます。この問題について、何かを少し改善する程度では何の変化も起きないと考えています。こうした矛盾は非常に根源的で、何かを変えようとするには、人間と自然システムとの関係を解釈する方法について、非常に根本的な変化が必要です。
問題の根源は生物学的であり文化的でもあります。私たち人間は地球上の生物学的な構成要素であり、多くの点でこれまでに最も成功した種と言えます。しかしこの成功が私たちに重くのしかかる問題を引き起こしています。この問題について重要な二つの特徴があります。一つはあらゆる種は利用可能な生息地を埋めつくすまで広がり続けるが、現時点で人類と同程度に地球を占める種はない、ということです。もう一つの特徴は、私たちは入手可能な資源を使い尽くす傾向があるということです。これらの点について人間は他の種よりも勝っています。なぜなら技術をもっているからです。
人類は「物語」を語る種です。どの社会、どの文化もそれを表す物語をもっています。世界文化という物語は、経済成長の永続的な前進と経済成長の可能性という神話に支配されています。科学革命を伴う知識が蓄積するにつれ、私たちは特に燃料技術に関する知識を使い、人間活動を維持するために他のすべての資源消費を増加させました。私たちの文化の基礎となる資源の多くは、安価な化石燃料を大量消費せずには入手できません。約100年前までは、人はその人生の間に変化を見ることはできませんでした。しかし今日、私たちの文化に重要なすべてのことは私が生まれた時には存在していなかったものです。ここ150年から200年に起きたことがあたりまえのように見えますが、長い歴史の中ではこの時代が唯一そして最も異常で変則的な期間なのです。

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現実に起きていること

化石燃料使用の爆発的な増加と同時に、人口の急激な増加も起きています。その結果として多くの重要なことが起きました。人々の活動は、この惑星で生み出されたものに頼った寄生する生活になってきています。これがエコロジカルフットプリントの分析でわれわれが測定したことです。結果の例として魚、特に「タラ」のストックの減少があります。人間が搾取している再生可能、もしくは非再生可能な資源についても同様の傾向を見ることができます。48の重要な鉱物資源のうち26種類は現実に枯渇しています。
資源枯渇に加えてもう一つの重要な問題を挙げるなら、人類は地球が受容できる汚染物の量をすでに超えて投棄しているという事実です。重量ベースで見ると、単一で最大の汚染物は二酸化炭素です。私たちは、温室効果ガスの増加と地球の平均温度上昇という長期的な影響を知っています。IPCCの報告書は、気温上昇を低く見通していますが、このまま温室効果ガスの排出量が増加すれば、産業革命前より4℃上昇すると主張する気候学者もいます。もしこの状態が続けば、今世紀末までに20-30億人の気候難民が発生することになります。人々のエコロジカルフットプリントは今も地球の受容量を超え続けています。
自然資源が便益を生むよりも速いスピードで人がそれを破壊し搾取する成長経済下にいるならば、その成長は人を豊かにするのではなく貧しくするような非経済的成長です。被害が便益よりも大きい点を超えた世界での成長から得られる物は何もないことは明らかです。現在の問題は、便益は豊かで力のある国で生まれ、その費用は世界の貧しく力のない国の人に課せられているということです。

私たちがするべきこと

資源の枯渇、化石燃料の制約、資源の代わりとなるような物質が十分にないことにより、この異常な期間が終わりを迎えようとしています。地理的に均等には現れませんが、世界は経済成長の縮小を経験するでしょう。そこで、私たちには選択肢があります。今まで通りに化石燃料の最後の一滴まで搾取し、私たち自身を気候変動によって引き起こされる危険の中に巻き込むのか。もしくは、自然が危険な状態にあるという問題を認め、私たちの高い知性と能力をこの問題の解決のために使うのか。人間特有の才能を使えば、データから原因を発見し、計画を立て、道徳的な判断を行い、共通の目的を達成するために協力することができます。賢い種が取るべき選択はどちらでしょうか? 私たちは、人間が豊かで幸福を感じるような最大利得を生み出す最適な点があることを認識するべきです。また、世界経済を縮小させるだけでなく、地球の生物学的容量の配分における衡平性も必要です。このためには単なる国際的な対話ではなく、人々の知性、思いやり、そして道徳的な判断という資源が必要です。
 生き残ることができるのは、一番強い種でも、一番知性的な種でもなく、変化に最も適応的な種なのです。私たちは適応するための能力をもっていますが、現時点では認識的、文化的な障壁があります。文化的な適応には、急速に変わる能力が必要とされており、その変化のためには私たちの社会の核をなす信念や価値観、仮定を考え直さなければいけないですし、時にはそれらを否定することも必要かもしれません。
なぜ、この知的で心的なプロセスはしばしば機能しないのでしょうか? それは、相いれない科学を無視して、先入観や観念的な考えに基づいて状況を評価しているからです。2012年6月にブラジルで開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)や気候変動の交渉会議の成果も、ほとんど事前に予想された記述になりました。私たちはこのタイプのジレンマを導く心的なプロセスを理解しつつあります。前もって考える方法や問題に近づくためによくとられる観念的な方法は、真実への障壁となると心理学者は言います。目の前にある挑戦は科学的な挑戦ではありません。私たちが直面している問題を知るための情報はもっているのです。すでに気候変動により大きな影響が出そうな道を歩んでいる現状にいながら、これ以上の科学的情報が必要でしょうか?競争的な個人主義や貪欲で狭量な個人的関心から脱却し、コミュニティでの協力と配分、集団としての関心や生存の方向に価値観を変化させるような世界規模の文化的な「物語」を作り直すために、世界全体での対話を始めなくてはいけません。

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これは、個々の人間や国が単独でできることではありません。人類の歴史においてはじめて、私たちは全員が同じ船に乗っているのです。この持続可能性の達成には、首相レベルの協力が必要になります。失敗は許されません。私たちが共に進むことに失敗する、もしくは既知の気候変動やその簡単なメカニズム、行動の理由に対して創造的な対応に失敗したら、そしてこの問題に対して何も言及しなければ、過去の歴史において無数の他の文明が失敗した時に陥ったのと同じようにわれわれも没落するでしょう。
社会的正義のある生態学的な持続可能性の達成に失敗することは、他の種から近代のホモ・サピエンスを区別している才能を発揮しないことを意味します。そしてもし、私たちが人類に課せられた課題に立ち向かえないならば、世界の文明の見通しは一体どうなるのでしょうか?

(和訳:社会環境システム研究センター 金森有子)
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 「所得ではなく豊かさで-バイオキャパシティがもたらす新しい視点-」

Dr. Mathis Wakernagel(マティス・ワケナゲル)さん
(グローバル・フットプリント・ネットワーク代表)

はじめに -問題の本質を理解するために必要なこと-

4.jpg私たちは、人間の需要や地球上で利用可能な物は何かを測ろうとしています。そして、このことの経済への帰結が何かを理解しようとしています。私は皆さんにその手助けをお願いしたいのです。グローバル・フットプリント・ネットワークでは、資源制約をどのように示すことが可能か、ということに注目することから活動を始めました。しかし、上手に示すだけでは実際の行動につながらないことを知りました。そこで、資源制約が私たちにどのように影響するのか知る必要があります。
自然界で実際に起きている問題に対して「この問題の答えは何か」という問いかけではなく、「何がそもそも問題なのか?そして私たちは何を知る必要があるのか?」という問いかけが大切です。つまり「将来にわたり、安全に人間活動を維持するために本当に大事なことは何か?」が重要な問いかけになります。資源が限られたこの惑星で暮らす上で本当に知らなければならないのは、どのくらいの資源があって、どのくらい使っても良いのか、ということです。
非常に直接的な計測方法があります。すべての生き物は地球上で空間を得るために争っています。なぜ、私たちはバイオキャパシティを考えるのでしょうか? エネルギー(厳密には商用エネルギーですが)は、制限要因と考えられています。商用エネルギーの大部分は化石燃料です。しかし化石燃料は制限要因であり、その廃棄物の問題に対応するためにどれだけのバイオキャパシティが必要でしょうか? 私は、中長期的に見てバイオキャパシティが究極的な制限要因であると考えています。

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バイオキャパシティの測定方法

バイオキャパシティを通して、地球全体の容量を把握するというのは最初の推定方法としては良いと思います。
では、どのように測るべきでしょうか? エネルギーに着目することも良いですが、難しい点はエネルギーが異なる質をもっていることです。私たちは、太陽から17万5000TW(テラワット、1TW=1012W)のエネルギーを得ています。そのエネルギーは、バイオマスの蓄積過程を通じて150-400TWに転換されます。どこの段階で測るかにより1TWの質が異なるため、比較対象としてエネルギーを用いることが難しくなります。
私たちは、生態学において純一次生産力(Net Primary Production: NPP)と呼ばれるアプローチを使っています。しかし厳密にNPPを考えることは難しいのです。例えば、森林伐採により失われるNPPを考えるとき、土壌や木の葉まで計算に含めますか? 森林の成長時は、根や葉を計算に含めますか?また、どのような時間スケールを考えますか? このようにNPPの使用量と所有量を比較することは難しいのです。そこで、このアプローチのより基本を考えるならば、「どれだけの林産物が供給されているのか、そしてどれだけの林産物が除去されているのか」ということが問題になります。これにより土地タイプごとに比較することができます。このアプローチは、私たちが得ているエネルギーフローの質と量を捉える際に役立ち、供給と需要を比較できます。
この計算方法では、需要のみ、供給のみといった勘定方法の一面だけ知ることはあまり役に立ちません。例えば収入だけわかっていて、支出がわからないなら、その情報は非常に限定的です。ですから、さまざまなスケールで両面を見るためのフレームワークにする必要があります。
計算方法の原理は簡単で、科学に基づいています。私たちが追究している研究の問いかけは非常に特定のもので、あらゆるものに答えるわけではありません。どれだけのバイオキャパシティをもっていて、そして使用しているのかという問いかけです。このことを計算するためのひとつの重要な式があります。使用しているのはこの式だけです。「あなたは何個のトマトを育てていますか?そしてトマトの畑はどれほどの広さですか?」この比率が単位面積あたりの収量となります。この式を用いて、生産するトマトの数を単位面積あたりの収量で割ると、トマトの生産に必要な農地の面積を計算できます。これが考え方のすべてです。
異なる土地を比較することも私たちは行っています。ある土地はとても生産的で、他の土地はそうでもないといった土地生産性の違いがあるため、グローバルヘクタールという考え方に翻訳する必要があります。グローバルヘクタールは、生産性のためにどれだけの大きさの土地が必要かを単に標準化したものです。これがフットプリントであり、バイオキャパシティの計測単位であり、ある年次におけるすべての地球上の生物学的に生産的な土地と海の平均生産性を表します。非常に生産的な土地は世界平均よりも2倍近く生産的であり、2グローバルヘクタールの価値があります。逆に、あまり生産的でない土地はグローバルヘクタールの半分程度の価値しかありません。

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資源の使い方が経済に及ぼす影響

各国が自分の国にはない資源に依存する程、経済ゲームへと完全に移行していきます。資源を欲する程、世界中の資源の総量を競い合うようになるからです。これがグローバルオークションと呼ばれる状態です。オークション状態になると、経済が変化します。いくら稼ぐかではなく、限られた資源を競うために他国と比較してどれだけ多く稼ぐのかということが問題になるからです。私が来年2倍稼いでも、あなたが4倍稼げば、私は資源の取り分を大きくすることは難しくなります。ですから私たちが注目すべきなのは、絶対的な収入ではなく、相対的な収入になります。
過去30年間の各国の変化を見ると、多くの国が資源については不足状態に向かっていることがわかります。人々は絶対的にはより多くの所得を得るようになりましたが、相対的には世界の総計に対するシェアを減らしていきました。この事実は私たちが直面している問題を示しており、世界から資源を得ようとするほど、得るための能力が消えていくのです。

私たちができること

今、私たちは何ができるのでしょうか? 所得ではなく、豊かさに注目する必要があります。つまり所得のフローを生み出すストックを維持する必要があるということです。公共政策は「豊かさを生み出しているか、それとも壊しているか」に焦点を当てるべきです。これが問いかけです。私たちは将来に向けたシナリオを作る必要があります。私たちが作ることができる最も起こり得る豊かなシナリオは何でしょうか? 私は何ができるでしょうか? 私なら非常に単純な考えで人々を競わせます。ビジネスでは、収益で競います。同じように公共政策では、究極的には1円あたりで最も持続可能な発展を生み出す方法をめぐって競うことになるでしょう。
あらゆる人と国に問うべきです。「どれだけの資源でどれだけの発展を作り出すことができるのか? そして、世界全体でどれ程の資源をもっているのか?」資源制約の中で世界的な基準に見合う高度な発展が可能な国は、わずか数か国しかありません。
私たちは日本の環境省と共にエコロジカルフットプリントを考察することから始め、私たちが得た数字が日本の数字とどの程度整合するのかについての結果を得ました。次の問いかけは「このトレンドが日本に対して意味するところは何か?」です。私たちがさまざまな国際的機関と共に行ってきているように、今後日本の皆さんと研究したいと強く思います。

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成功のための三つのキーポイント

最後に、成功のための三つのキーポイントを示して終わりたいと思います。
・自然にも容量があります。あなたがどれだけのバイオキャパシティを持っているか、そしてどれだけ使っているかを知っていますか?
・もしバイオキャパシティが21世紀の通貨になるのであれば(私はそうなると信じていますが)、その時は相対的なGDPが重要になります。
・バイオキャパシティが制限要因であると認識した時に最も大切なことは、国や都市にとって資源の不足を減らすために資金をどこに投入するかを知ることが非常に強い自己利益となる、ということです。

(和訳:社会環境システム研究センター 金森有子)


リース博士、ワケナゲル博士の講演要約は地球環境研究センターニュースに掲載されたものを同センターの許可を得て掲載しております。