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東アジア海域
海洋環境モニタリング


1.海洋環境モニタリングとは?
2.モニタリングの概要
3.観測・分析方法
 ・観測方法
 ・分析方法

4.観測結果

5.データ
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7.参考資料
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 ・参考文献

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9.関連リンク
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Last updated on August  3, 2005
4.観測結果
ボタン観測結果の表示例、-特にシリカ欠乏仮説に関連して-

このデータから明らかになった海洋環境の変動の例を見てみましょう。CSVファイルから、播磨灘中央部(東経134.6o-134.8o)の範囲に含まれる栄養塩の値を選び出し、これから溶存無機窒素(DIN=NO3+NO2+NH4)、溶存無機リン(DIP=PO4)、溶存ケイ素(DSi=Si(OH)4)の時系列グラフとして描いたのが5です。

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図5 フェリーで得られたデータのうち、播磨灘中央部(134.6o-134.8oE)の1994年4月?2001年3月の期間の時系列変化をグラフにしたもの. 記号, , および は、それぞれ溶存態無機窒素(DIN), 溶存態無機リン(DIP), 溶存態ケイ素(DSi)を表している。植物プランクトンは、窒素、リン、ケイ素をほぼ16:1:16の割合で吸収するとされる(レッドフィールド比)。したがって、各濃度のプランクトン増殖への寄与を評価できるように、この図ではDIPの値に16をかけてある。

DIN, DIP, DSiともに2月ころ、植物プランクトンが春季大増殖(スプリングブルーム)を起こす時期に吸収されて減少します(記号∇)。プランクトンの死骸は海底に沈降するのですが、その後分解して無機栄養塩にもどり、秋の海面冷却による上下混合で海洋表層に上がってきます(記号Δ)。DSiだけは初夏の降雨で陸から流入するので、DINやDIPより早く回復してきます。このように表層に栄養塩が戻ってくると植物プランクトンの増殖が可能になり、光の条件も整うと翌年のブルームが始まります。基本的には、このような季節サイクルが基本なのですが、海域によって物理的条件が異なるので、その様相も均一ではありません。

ここで、空間分布を見てみましょう。今度は、全データを経度0.2oの範囲ごとに1994年から2001年の期間で時間平均をとります。その値を西端(別府港近傍)から東端(大阪南港沖)までプロットしたのが図6です。これによれば、塩分は西高東低の分布になっており、DIN, DIP, DSiは東高西低になっています。大局的には、東端の淀川流入や阪神地域の人為的負荷により、東側ほど塩分が下がり、窒素、リン、ケイ素が高くなっているといえるでしょう。ここでDSi/DINの相対比をみると、西高東低になっています。どうしてこのようなことが起こるのでしょう?またこのような分布は植物プランクトンの増殖など海洋生態系にどのような影響を与えるでしょうか?

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図6 フェリーで1994?2000年の期間に得られた全データを、経度0.2oの範囲ごとに7年間の平均値をとり、東西の分布を表したもの。東経131.6o?135.6oの範囲で0.2oごとに平均を取り経度の中央値でプロットしてある。左端が別府港沖、右端が大阪港沖である。記号は図5と同じ。

近年、以下に示すような「シリカ欠乏仮説」が世界的に議論されるようになりました9)。人為影響により水域に流入する窒素(N)やリン(P)の流入量が増えます。これだけなら、以前からの富栄養化問題なのですが、これにダム建設等による陸上停滞水域が増えると、その停滞水域で淡水性のケイ藻類が増加し、N, Pとともにシリカ(溶存ケイ酸, DSi)を吸収して沈降します。もともとDSiは岩石が降雨で風化され水域に溶出してくるものなので供給量はきまっていますから、こうなると海域に流下してくる量が減ってしまいます。もし、沿岸海域でNやPに対してSiが相対的に減ってくると、Siを必要とするケイ藻類よりも、それを必要としない渦鞭毛藻などの非ケイ藻植物プランクトンの増殖が有利になると考えられます。前者が健全な海洋の生態系の基礎となっているのに対し、後者は有害赤潮を形成することがあります。

ここで淀川の上流に目をやると、富栄養化が問題になっている琵琶湖があります。興味深いのは、琵琶湖に流入する野洲川などではDSiの値が200単位記号mol L-1くらいあるのに琵琶湖の表層水では1桁小さくなってしまうことです。すなわち、琵琶湖で淡水性ケイ藻がDSiを吸収して沈降・埋積してしまうためこうなるのです。琵琶湖から流出する淀川水系でも当然DSiが相対的に低くなりますから、この影響を受ける瀬戸内海東部ほど平均的なDSi/DINの相対比が小さくなるのです。このようなことを考えると、瀬戸内海の西部(豊後水道・伊予灘など)よりも東部(播磨灘・大阪湾など)のほうが有害赤潮が多いことがうなづけます。

ただし、大阪湾と播磨灘を比較すると、DSi/DIN比は大阪湾で最低になるのに、播磨灘のほうが渦鞭毛藻による有害赤潮が多いようです。この理由は、淀川では琵琶湖の存在のためにDSi/DINの相対比は下がっても、DSiの絶対値としては海洋表層より高いので、淀川河口近傍ではケイ藻による赤潮が多くなるのでしょう。

我国では、海洋モニタリングの例はけっして少なくないのですが、ケイ素を含めた系統的な観測が非常に限られており、本モニタリングは貴重なデータとなっています。また、シリカ欠乏仮説は、国際的にも重要視され、SCOPE(環境問題科学委員会)が開催した国際シリカワークショップ10)(第1回はスウェーデン、第2回はベトナム)で議論されています。本モニタリングデータもアジアからの発信としては数少ない例となっています。


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