材料と試験方法  エストロゲン活性試験には、酵母ツーハイブリッドシステムにより酵母(Y190株)にヒトエストロゲン受容体遺伝子とコアクチベーター(TIF2)の発現プラスミド、及びβ-ガラクトシダーゼ発現系レポータープラスミドを組み込んだ組み換え酵母*1を用いて行っております。
 なお、試験法は多数の化学物質を鋭敏かつ迅速にアッセイするために、96ウェルマイクロプレート培養法と化学発光測定法を適用したアッセイ系を開発しました。*2
 測定項目は、化学物質がエストロゲン受容体と結合し、転写活性化の誘導をレポーター遺伝子のβ−ガラクトシダーゼの発現で調べる「アゴニスト」試験と、試験化学物質がエストロゲン受容体に結合したために培地中に共存させたリガンド(β-エストラジオール)による活性の阻害を調べる「アンタゴニスト」試験*3ついて、化学物質そのものによる試験(−S9 テスト)、ラット肝上清(S9)に含まれる薬物代謝酵素により代謝した物質(37℃,1時間)による試験(+S9 テスト)を行いました。
参考文献
  *1 Nishikawa, J. et al.
New screening methods for chemicals with hormonal activities using interaction of nuclear hormone receptor with coactivator. Toxicol. Appl. Pharmacol., 154, 76-83, (1999)
*2 白石不二雄 他
酵母Two-Hybrid Systemによる簡便なエストロゲンアッセイ系の開発、環境化学、10, 57-64 (2000)
*3 白石不二雄 他
酵母を用いたエストロゲン・アンタゴニストアッセイ系の開発と有機スズへの応用, 環境化学,11,65-73(2001)

試験化学物質  今回記載した化学物質は、1998年環境庁(現環境省)が、「内分泌かく乱作用を有すると疑われる化学物質」(SPEED'98)として記載した化学物質(ダイオキシン類、PCBを除く)のほか、市販の試薬を中心に試験依頼された合成化学物質で、天然化合物(Nat)、医薬品・食品添加物(Med)、農薬(Pest)、工業化学物質(Ind)、有機金属類(Org-met)の5つのCategory別に分類した291物質です。
 試験データは CAS番号(Cas No.)、物質の頭文字(アルファベット)、カテゴリー(分類別)、活性評価(アゴニストとアンタゴニスト別の陽性(+)、陰性(-))、30物質ごとのページ番号順で検索できます。
 なお、スチレン・ダイマー及びスチレン・トリマーの多くの異性体については、S.D.およびS.T.と物質名の前に記載してあります。

化学物質の試験データ  化学物質ごとにエストロゲン・アゴニストとアンタゴニスト試験の結果を1ページずつに表及び図で記載しました。
表及び図中の語句の説明
A0001(例) 試験した順番でつけた当研究所の識別ナンバー
Evaluation 各化学物質のエストロゲン作用について研究者サイドの基準によりアゴニストとアンタゴニスト別に判定した評価を記載しました。
(例)
陰性
+(+S9) +S9テストで陽性
Not tested 試験せず
Not applied 試験を適用しない
(強いアゴニスト活性を示すため)
(-S9) 化学物質そのままの試験、代謝試験(+S9)に対する表記法
(+S9) 市販のラット肝上清(S9と呼ばれる)を含む溶液で化学物質を37℃で1時間処理した物質による試験
ECx10 アゴニスト試験の評価値で、濃度に依存したβ-ガラクトシダーゼの化学発光強度の増加を示し、4倍以上の活性が見られる化学物質のベースラインに対して化学発光比が計算上(回帰直線式)10倍を示す濃度(nM)
-<10,000nM(例) 試験化学物質が、10,000nM以下の試験濃度でベースラインの4倍以上の活性が認められず、陰性と判定
Relative activity (%) to E2 E2(β-エストラジオール)の活性を100としたときの相対活性比(強さの指標)
Toxicity(P.B.)、IC50 試験化学物質の一般毒性の指標とした発光細菌毒性試験(-S9テストのみ)、IC50は発光細菌の生物発光を50%抑制する濃度(推測値も含む)
EC50 アンタゴニスト試験の評価値で、濃度に依存したリガンド(E2)による活性の抑制を示し、対照に対して40%以上の抑制率を示した場合の化学物質の50%抑制(影響)濃度
Antagonist, -<5,000nM(例) 5,000nM以下の試験濃度で対照の40%以上の抑制率を認めず
RA(%) to 4-H-TF 4-Hydroxy-tamoxifen(エストロゲン・アンタゴニスト作用陽性対照物質)に対する相対活性比
Toxicity(YTOX),IC50 酵母アッセイ法によるアンタゴニスト試験結果の判定に供する酵母毒性試験、IC50は酵母の誘発β-ガラクトシダーゼを50%抑制する濃度
Ratio of CLN(T/B) アゴニスト試験において、誘導されるβ-ガラクトシダーゼの化学発光強度をベースライン(Concentration;0nM)に対する処理群の比で示した値
Rate(%) of BLN(T/C) 発光細菌毒性試験において、生物発光強度の対照(0nM)に対する処理群の百分比(%)
% of CLN Inhibition アンタゴニスト試験において、化学物質処理によるリガンド(E2)の化学発光強度の抑制を百分率(%)で示した値
(例)
0 抑制も増加も見られず
69 化学物質の処理によりリガンドの活性が69%抑制された
+120 化学物質の処理によりリガンドの活性が対照よりさらに120%増加した
Rate(%) of β-GAL(T/C) 酵母毒性試験(YTOX)において、化学物質処理による酵母の誘発β-ガラクトシダーゼ値の対照(0nM)に対する百分比(%)
(例)
100 抑制も増加も見られず
43 化学物質の処理によりβ-GAL値が49%抑制された
110 化学物質の処理によりβ-GAL値が対照よりさらに10%増加した